車を走らせてから、アポを取らなかったことに気づいた。
「ああっ」
でかい声を出した俺に、雅紀がビクって肩をあげて振り向く。
「あ、ごめん。なんでもない……」
いきなり訪ねて、お願いごととか……ありえねぇだろ。
いやでも、雅紀のスケッチブックを見たらきっと、やってくれる。
「……しょーちゃん、あの……」
心配そうな声に横を向いた。
「なに?」
「その人って、しょーちゃんのお友達なの?」
「え?」
「もしかして、彼女さん、とか……?」
「はぁ?!」
「……違う?」
「ちげぇよ!前に仕事をお願いしたことがあるアーティストさん。オジサンだよ?」
「あ、そうなんだ……」
ほっとした顔で笑った雅紀の髪の毛をくしゃって撫でて、近くの有名な洋菓子店の駐車場に車を停める。
「ここのシュークリーム美味いんだって」
「わー!シュークリームも好き!」
手土産にクッキーの詰め合わせを買って、シュークリームをふたつ買ってから車に戻る。
「うんめっ!」
「うまー!」
あっという間にシュークリームを平らげて、お互いの顔を見て笑う。
「くふふ、しょーちゃんヒゲできてる」
「雅紀もついてるぞ、口の横」
えー!って言って、ぺろりと舌を出して口の横を舐める。
……さっきも似たような光景を見た気がすんだけど。
……めっちゃ美味そう。
「しょーちゃん?」
不思議そうに首をかしげた雅紀に手を伸ばして、まだ残っていたクリームを親指で拭って、無意識のまま、それをペロリと舐めた。
「ちょ……!しょーちゃん!」
「は?」
「な、なんでもない……」
真っ赤になった雅紀を見て、俺、何したっけ?って考えること数秒。
「……あ……」
「しょーちゃんの、えっち」
「はぁ?!」
何がえっちなんだよ!って、ぱこんって雅紀の頭を叩く。
うひゃひゃひゃひゃひゃ!って爆笑してる雅紀につられて俺も笑いながら車をアトリエに向かって走らせた。