外に出るとふわりと漂う、香り。
もう、そんな季節なのかと思う。
「どした?」
しょーちゃんが車のキーを片手に振り返る。
「うん。金木犀のにおいするなって、思って」
「キンモクセイのにおい?」
「うん。しない?」
しょーちゃんが、くんくん、鼻を動かして、あぁって、呟く。
「この、甘いにおい?」
「くふふ、うん、そう。金木犀のにおいがすると、秋だなぁって思わない?」
「うーーーん。あんまり気にしたことないかも」
その答えがしょーちゃんらしくて、笑う。
「あ、でも…金木犀って、お前の実家だろ?」
「え?」
「『桂花』だろ?」
「へぇ、そうなの?」
今度はしょーちゃんが笑った。
「あ、ほら、あった!あそこ!」
マンションの駐車場の入口に、オレンジ色の小さな花が見えた。
「花も小さくてかわいいよね」
「……あ」
しょーちゃんがなにか思い出してびっくりしてる。
思い出した?
においの記憶って消えにくいっていうもんね?
「お前と、初めて会ったっていうか、初めて喋ったとき…このにおいしてたな……」
「くふふ。そうだね」
初めて言葉を交わした時も
初めて気持ちを伝えた時も
この季節
このにおい
ほんのり甘い香りがするたびに
初めての気持ち
大切な気持ち
思い出しては幸せだなって感じるんだ。
「ほら、行くぞ」
差し出された手に指を絡める。
来年も再来年も、きっと
この季節になったら思い出すんだ。
君とのはじめてを
君への気持ちを…
金木犀の甘い香り
俺の、大好きな香り。
