「どしたの?サク…」
「なんか、今日は翔やん、神がかってるんだよね」
部長に書類を出しに来た松本が、二宮とこっちを向いてなんか言ってるけど…
なんとでも言え。
こっちは、急いでんだよ。
昨日残した仕事もきっちり仕上げたいんだよ。
プライベートに左右されるような仕事のやり方、俺自身が許せないんだっての。
データ、見直した。
数字、チェックした。
「あれ、二宮、このファイルって最新版まだ?」
「あ、いま出来たとこ」
「さんきゅ」
松本が黙ったまま、コーヒーを俺のデスクの端に置いて通り過ぎる。
プレゼンの資料まとめて、質疑応答議事録くっつけて、対応策考えてまとめて、部長のデスクにドン、って、置いた。
「確認よろしくお願いします」
「おぉ、早かったな」
「今日も定時で失礼します」
定時まで、あと、5分。
ほかの案件にも目を通して、進捗状況と優先順位を確認。
新規案件をチェックして、使えそうな資料をピックアップ。
「増田、これ月曜でいいからデータチェックし直して。ちょっとおかしいとこ、あったぞ」
「あ、はい!ありがとうございます」
定時のチャイムが鳴って、立ち上がった俺をびっくりした顔でみんなが見るから
「あの、用事があるのでお先に失礼します」
ぺこり、と頭を下げた。
顔を上げた時、二宮がニヤニヤしながら見てた気がするけど…
急いでオフィスを出て、エレベーターホールに向かう。
まだ、誰も出てこない。
下向きの三角を押して…そこに映る自分を見る。
ネクタイ、曲がってるか?
髪の毛、もやっぱり、朝のまんまってわけにはいかないか。
小さな銀色の四角を覗き込んで、前髪直して…
って、何してんの、俺。
相葉くんに、会うだけ。
お礼を渡すだけ、だろ。
…遅いな、エレベーター…
待ってるよな、相葉くん…
カチカチカチカチ!
「おっせぇよ!」
小さくつぶやいてボタンを連打。
いや、押したって変わらないのは知ってんだけど…
ポンって音がして、ようやく開いたドアに滑り込む。
奥の壁に凭れて、どんどん小さくなっていく数字を眺める。
…5…4…3…
2になると同時に深呼吸。
ノンストップで1階までって、ツイてるな。
「よしっ」
なんでかわかんないけど、気合を入れて。
開いたドアに弾かれるように、ダッシュで外へ飛び出した。