「あ!おーのセンセ、生徒会室の鍵、ちょーだい」
昇降口でちょうど通りかかった大野先生にカズさんが声をかける。
「おー」
大野先生がふにゃんって笑って、職員室へ向かう。
その背中を見ながらカズさんが、ふふって笑う。
「カズさん?」
「まーくん、俺ね…あの人が好きなの。ずっとずっと好きで…でも隠さなきゃって、ぎゅうぎゅう押しつぶして固くなって、痛かったの。だけど…」
「…だけど?」
カズさんの茶色い瞳が俺を見上げて笑った。
「まーくんのおかげで、痛くなくなった。まーくんのおかげで、伝えられたんだよ」
「…それは、カズさんがそうしようって思ったからでしょ?」
「うん。だからさ、そのキッカケをくれたのがまーくんなの。感謝してる」
「お待たせー」
チャラチャラ音をさせて大野先生が鍵をカズさんの手の上に置く。
一瞬だけ触れた手に、一瞬だけ、微笑み合う。
その姿にどきん、とした。
なんだろう、なんでだろう。
キラキラ綺麗なのに、胸がきゅってなるのは…
「ほら、まーくん。使い終わったら職員室に返してよ?」
渡された鍵をぎゅって、握る。
「…あれ…どうしたの?まーくん?
まーくんと翔やんは、そのまんまでいいんだからさ。っていうか、そのまんまでいてくれないと、困るんだけど…」
どれが正解ってないんだし、俺の心はもうチクチクしないんだからさって、カズさんが笑う。
でも、さっきのふたりの笑顔が切なくて…
「もー!まーくん!そんな顔すんのは翔やんの前でだけにして!」
カズさんが俺の手から鍵を奪って、生徒会室まで俺の背中をグイグイ押して歩いた。