店の少し手前で立ち止まる。
今、店の中へ消えた背中。
見慣れた、背中。
一瞬しか、見えなくたって...誰だかわかる、背中。
...ほんとに、来たの?
カノジョに、会いに?
バカじゃないの。
何を見てんだよ、しょーちゃん。
なんで、カノジョといるんだよ。
胸の奥の方がちくんって、痛んだ。
なんで?
俺が傷つく理由なんてない。
ゆっくりと歩いて、店の前まで来たところで、反対側の店の角から橘くんが走って来た。
「ごめんね?待った?」
「走ってきたの?ゆっくりでよかったのに」
俺から誘ったのに、待たせるのはダメでしょって、笑いながらドアを開けてくれる彼に、ありがとって笑顔で言って中へ入った。
「わー!ホントにおしゃれ!」
お店の人に案内されて、2人で並んで個室へと向かう。
「いいでしょ?ここ」
橘くんが嬉しそうに振り返って言う。
その、前に...さっきと同じ背中が見えた。
「やっぱりデート向きなんじゃない?」
少し怪訝そうな顔で、ちょうど今、閉められた個室のドアを見つめる橘くんに声をかけた。
「...え?あ、あぁ、そうだね。」
橘くんも、見た?
誰が入っていったのか、見てたよね?
「どうしたの?やっぱり彼女と来ればよかったー!って思ってんの?」
「あー、今はね、恋人いないから!絶賛募集中でっす!!」
橘くんが、かっこよく笑って、どうぞって俺を個室の奥へと促した。
「とか言っちゃって、モテモテなんでしょ?」
「相葉くんこそ、モテモテでしょ?」
「うーん、そうでもないよ?」
「あー、もう雲の上の人すぎるんだな、きっと」
「そんなことないと思うけど」
「噂には聞いてたけど、相葉くんと共演させてもらって、ホントに噂どおりの人だ!って、感動したもんな、俺。」
ビールが運ばれてきて、乾杯!って、グラスを合わせた。
「ヨイショしても、なんもでないよ?」
そう言った俺に、ビールのグラスを置いてから、いやいやいやって、手をひらひらさせて、言う。
「ホントに思ったことを言ってんの。
こんなに綺麗でかわいくて、優しくて...なのにたまに影が見えるところとか、たまらないんだよね」
にっこりと笑う、その顔は...
橘くんが俺に、初めて見せる顔だった。