「も、帰る...」
「...ん...」
「帰るってば」
「...ん...」
そっと、おーのさんを押すのに、その度にぎゅって、抱きしめられて、もう本当にどうしていいのかわかんない。
「『ん』じゃなくて、帰るから...」
「...ん...」
腕の中から出るのを諦めて、また背中に手を回した。
...いいんだよね?
「おーのさん...好き」
「...ん...」
もう1回、言ってみたけど、おーのさんはまた、『ん』って言って、俺を抱きしめる、だけ。
「『ごめん』の後は『ん』しか言わないの?」
「......ん......」
ぎゅって、また抱きしめられて、俺はもう、そのまんま、おーのさんに身体をあずけた。
何も言われなくても、伝わってくる。
俺のこと、好きなんでしょ?
でも、聞かない。
言わなくても、いい。
こうしててくれれば、いいから。
心地いいスピードで心臓が脈打って、おーのさんの心臓の音と、俺の心臓の音が重なって、ひとつになって...
まーくん。
痛いだけじゃ、なかった。
もっともっと2人でぎゅってして、磨いたら...
きっとダイヤモンドよりも固くなって、キラキラ光る、はず。
きっと、俺らなら、できる。
「おーのさん、ひとつだけ、お願いしてもいい?」
おーのさんが、やっと腕を緩めて、俺の顔を見た。
「俺ね、あの日のファーストキス、上書きしたいの」
あれ以来、誰も触れてない、唇。
消去したくても、できなかった、記憶。
「おーのさんで、上書き保存、させて?」
...こんなこと、恥ずかしくて二度と言えない、けど。
今だけ...今だけ、だから...
言った後で、心臓が破裂しそうなくらいバクバクし始めて、おーのさんの顔が見れなくて、下を向いた。
「ふふ、耳まで真っ赤」
おーのさんの指が俺の耳をなぞって、そのまま、顎をつかむ。
「下、向いてたら出来ないよ?」
そう言って、俺の顎を優しく持ち上げて...
ふわり
おーのさんの唇が、一瞬だけ、優しく俺の口に触れて、離れた。