小早川深雪side*
――あのとき。
実架は私にこう聞いたんだ。今でもはっきり、覚えている。
「…みゆにとっての運命の人が菅原さんなのね。
みゆ…良かったね。」
…私の大好きな笑顔だ。
実架の笑顔に
私は胸がいっぱいになってしまって、
涙を見られたくなくて実架の胸に飛び込んだ。
「みゆは本当に甘えん坊さんなんだから。…これからは菅原さんにぎゅってしてもらいなさい?」
幼子をあやすみたいにぽん。ぽんと優しく背中をたたいてくれる実架。
私は実架が大好きだ。
もしかしたら菅原さん以上に――。
――――…
こんなふうに。
私と実架にはたくさんの思い出があった。
桜咲翔の存在が実架にとってどれ程大切な存在であったかは側にいた私や陸がよく知っていた――筈なのに。
私や陸が予期しなかった事態が
突然、起きてしまった。
桜咲翔が海外戦略部に移ってから三ヶ月後――3月下旬――、
私はあまりにも資料室からの帰りが遅い実架が心配だった。
その日。
帰りに居酒屋に寄って帰ろう、という話になり。
実架は調べたい書類があると言って、
資料室に寄ってから帰りたいと言っていた。
私も片付けたい仕事があったので一時間後、一階のシュプールで待ち合わせることにしていた。
…それが一時間経っても実架は現れなかった。
私は資料室に行ってみようと思い資料室のある三階へ向かった。
―三階…あいつの部署は三階にある。
一人で行かせた私が馬鹿だったと――後悔するのは遅く。
私は三階の突き当たりにある資料室に入った。
薄暗い室内、
埃くさい匂いと書物の匂い。
私が実架を探していると―――
あり得ない光景を目の当たりにすることになる。
実架の目の前にいるのは――桜咲翔だった。
実架はガクガク震えている。
「実架っ!」
私は実架に駆け寄る。
「あんた――実架に何したの?」
私は静かな怒りに全身が氷のように冷たくなっていくのを感じていた。
「――別に?」
あいつは涼しい顔で立ち去ろうとする。
「ちょっと!待ちなさいよ――…実架…?」
そこで見たもの―――それは。
「はあ…はあ…はあっ…みゆ…きっ…わたし…わたしっ…わたしみたい…な…にんげん…いないほうが…いいのかなっ」
過呼吸で苦しむ、実架の姿だった。