都の、翔の君のお邸では、同じ月を雅紀と和也も見上げておりました。



「お月様、明るいね」

「ああ」

「半分だね」

「ああ」

「虫の声が聞こえるね」

「ああ」

「なんか、淋しいよね」

「…ああ」

「もう!さっきから、ああばっかり!ちゃんと話してよ!」

「話してるよ。雅紀の言ってること聞いて、返事してるでしょ?」

「そうだけど…」


そう申した雅紀は、淋し気な目をして、再び月を見上げました。



「翔の君様がいらっしゃらないと、俺の心も、あの月みたいに、半分なくなっちゃったみたいなんだ…」

「…ああ…っと、少し風が出てきたな。夜風は体に障る。そろそろ閉めよう…な?」

「うん…もう、寝よう。夢で、会えるかな?」


瞳を輝かせて、そのようなことを申す雅紀を、大人びた眼差しで見詰め、和也は頷いてやりました。
雅紀は微笑んで、横になり目を瞑りましたが、思うように寝付けず、何度も寝返りを打っておりました。


「眠れないの?」

並べた褥に、共に横になっていた和也が、暗闇の中、声を掛けまする。

「うん。ごめん。俺がこんなじゃ、眠れないよね。じっとしてるよ」

「…手」

「え?」

「手、握ってて…やろうか?」

囁く声が、少し近づいたようにございます。

「真っ暗だから…顔、見えないから、俺の手、翔の君様だと思って、目、瞑ったら、眠れるかも…しれない」

「そうか。そうだね。そうかもしれないよね。じゃ、試してみようかな?」

そう申すと、雅紀は、もぞもぞと手探り、和也の手を握りました。

「翔の君様より、ちょっとちっちゃいけど」

「うるさいよ。そんなこと言うんだったら…」

「あっ、ごめん、ごめん。謝るから…このまま…離さないで…」


雅紀は、闇の中で、縋るように強く握ります。二人の間は、もう、本当に近こうございました。




「ねぇ。和也?」

「ん?」

「もう、あの話、翔の君様にしたの?」

「いや、まだ。こっち戻ってから、随分とお忙しくしていらしたから、話す暇なかった」

「そうなんだ…俺ね。和也が居なくなっちゃっても、やっぱり、心、半分になっちゃうような気がするんだよね…」

「何言ってんのよ。翔の君様がいらっしゃれば、それで充分満月でしょ?」

「それは…翔の君様は特別だけど、俺、和也も、好きだよ?」



ふわりと、羽が触れる様に、唇が唇に触れました。


「雅紀…」

「ごめん。俺…淋しくて、淋しくて…」

震える小さき声は、和也の胸に取り縋り、そこを熱くさせました。
和也の腕が、雅紀の肩を優しく抱(いだ)きます。



「俺はここに居るよ。今、ここに居る。だから、淋しがるな」

「うん」




稚児らは、互いに抱き合いながら、遠くに居られるお方のことを思いつつ、眠りに堕ちてゆきましてございます。