褥に抱き合いて、雨音を聞くともなく聞いておりますと、翔の君が申されました。


「和也…わしに何か隠しておろう?何ぞ申したき事でもあるのか?」

「何故(なにゆえ)、そう思われますか?」

「今宵は素直すぎる」

「左様でしたか…」

和也、観念致し、笑み零し、思案した後、語り始めました。



「俺も、雅紀も、今年十八になりました。もう完全にとうが立ってしまって、可愛げもなにもないでしょ?

いえ、遠回しに嫌だとかって、申してるわけではないですよ?今宵の様に召されることは…その…凄く有難いなって…本当に思ってます。

だけど、そろそろこの先の事を考えなきゃいけないのかな?って、そんなこと、なんとなく二人で話してたんです。

そしたら、今日、翔の君様が智から笛をお受け取りになるのを見て、その素晴らしい音色を聴いて…あいつ、泣き出したんだよな」


「それで?」


「翔の君様、いえ、主様。俺はいいです。でも雅紀は、ずっとお傍に置いてやって下さい。あいつ、もうずっと泣いてんですよ。俺じゃだめなんだ。俺じゃ…あいつには主様しかないから…」


和也は起き上がり、肌を晒すも厭わず、手を着いて、深々と頭を下げました。


「この通りでございます!どうか、お約束下さい!あいつを見捨てないって!お頼み申し上げます!」


そう申して小さく丸まった背に、そっとお手を添えられ、深い声音にて仰られました。



「和也よ。わしがその様な薄情者と思うたか。

未通だったお前達を手許に置いて、こうして枕を交わすまでになってから、わしはお前達に済まなく思うたことはあれど、疎ましく思うたことなど、露ほどもない。

お前達が望めば、三十路を過ぎようが、四十、五十でも、褥を共にしても良いと思うておる。

だが、それではお前達の身が立つまい。
良き機会に、身の振り方を決めるも良い。
誓ってやろう。お前達を見捨てはすまい。故に、お前達の道は、お前達で好きにするが良いのだよ」


「真に有り難く、もったいないお言葉…ありがとうございます!」

「うむ」

「でも…翔の君様」

「なんじゃ?」

「五十になられても、俺らのこと、お召し下さるのですか?」

「ん?それは、言葉のあやじゃ。忘れよ」

「あっ、はい。忘れました。もう何だったかわかりません」

「ほんに。和也は食えん奴じゃ」

和也の小さき鼻をお抓みあそばされた後、その裸身を引き寄せ、組み敷かれました。

「食えん奴を、また食うのですか?」

上目遣いに、和也が申します。


「そうよのう。巧く食えるよう、念入りに料理致すとしよう」

「あ…ああ…」



寝乱れた褥、衣を包むは雨音の調べ。

御帳の内に時を忘れ、ただ悶々と籠り、密やかに、熱く咲き散る花の、薫りも極まれる。


溜め息も、譫言(うわごと)も、闇夜の帳(とばり)の中に塗り込めて、浸るは只、うたかたの夢……。