また幾日か過ぎ、智の薬のお陰か、雅紀もみるみる元気を取り戻し、屈託のない笑顔も見られるまでになりましてございます。
宵に智が参りて、稚児らと、親しく他愛もない話をしておりました。
この頃には、三人とも、旧知の仲の様に打ち解けておりました。
「ほんとに、智の薬は、胃の腑が飛び出しそうな程まずくて苦いよ」
「良薬口に苦しだ」
「いや、でもそれにしてもどうにかなんないの?」
「ならん!雅はそのお陰で助かったんだから、うるさいこと言うな」
「出たよ。上から目線」
和也が口を挿みます。
「おいらはお前らより年上だからな」
「どうせ、ひとつ、ふたつの違いでしょ?」
「そうだそうだ。そんな違わないんでしょ?!」
「わかった!寧ろ、年下なんじゃないの?」
「違う!おいらの方が上!」
「じゃ、幾つか教えてよ」
「やだ」
「ほら、やっぱりぃ!」
等と騒いでおります所へ、翔の君がおいでになられました。
「この者はわしより歳上じゃ」
「ええ~?!」
「本当に~?!」
「真じゃ。わしもちと驚いた」
「あっ!!これは翔の君様、主様、失礼申し上げましてございます!」
稚児らは慌てふためき、居住まいを正しました。
「よい。寛いでおれ」
翔の君は、上座へ足を崩してお座りになられましたので、稚児らもそれに倣いました。
「所で雅紀。具合はどうじゃ?」
「はい。智の薬のお陰で、このように回復致してございます」
そう申し上げた後、少しもじもじと致しました。
「どうした?何か申したいことでもあるのか?」
優しく見詰められた雅紀は、顔を真っ赤に致して、がばっと手を着きました。
「ごめんなさい!俺のせいで翔の君様に迷惑掛けて…ほんとに…!」
「よいよい。雅紀、迷惑などではない。わしは楽しんでおるぞ」
「本当に…?」
「ああ。御殿の中は暗い。ここの空気は清い。のう。智」
翔の君は智をご覧になられました。
智は、いつもと変わらぬ顔つきをして、見返すばかりでございます。
翔の君は、ふっと目許を緩められました。
そして、小さきお声にて、呟かれました。
「稀有なる相か…真、そうかもしれぬな」
翔の君は、ご自分でも知らぬ間に、惹かれておゆきになっていたのでございます。
そして、そのご様子は、稚児らに、一抹の不安をお与えになりました。
特に雅紀の胸には、大きくその影を落としたのでございます。