するとそこには、薬を持った智が立っておりました。

「あ、やっと開いた」

「誰だ?!お前!何用か?!」


気色ばむ和也には目もくれず、智は離れに上がり込みました。そして、倒れている雅紀の傍らへ膝を着くと、額に手を当てました。


「雅紀に触れるな!!」

朱を上げて声高に詰め寄る和也に、智は常と変わらぬ恍けた顔を上げました。

「うるさい」

落ち着いたその声を聞いた和也は、智が、昼間聞いた筍の男なのだと知りました。そして、俄かに、興味を抱いたのでございます。

「和也…どうしたの?」


智の手の下から、雅紀の弱った声が致します。

「ああ、あんた大丈夫か?薬持って来たぞ。飲めるか?」

粗野な物言いに相反して、優しい声音に、雅紀は安心したように微笑みを浮かべました。


「その薬、おいしい?」

「苦い」

「え~」

「飲まないと死ぬぞ」

「じゃ…飲んだら助かるの?」

「うん。たぶん」


智に体を支えられ、ようよう体を起こした雅紀の、花の様な唇に、智は薬の入った盃を運び、ひと口飲ませました。


「にっが…!」

「全部飲め」

あまりの苦さに、目許も口許も歪んでしまいましたけれど、それでも雅紀は、盃一杯を飲み干しました。


「雅紀、大事ない…か?」

傍まで寄ってきていた和也が、雅紀の顔を覗き込みますと、雅紀は、安堵の面(おもて)を現しました。


「和也…ほんと、ごめん」

「気に病むな」

稚児らが見詰め合う、しめやかなる雰囲気を、智は意に介さず、雅紀の袖を大きく捲り上げました。


「ああ…!!」

「お前…!なんということを…!」

雅紀は、恥ずかし気に反対の手で顔を覆い、和也は、顔をひどく赤らめて絶句致しました。


「ん?」


智だけは、平然と、雅紀の腕に巻かれた袿(うちき)の袖を解き、灯明に腕を照らして、よくよく 観ております 。
  




そこへ、先程の音を聞きつけられた翔の君が、表より参られ、襖をお開けになられました。

そして、この様子をご覧になり、雅紀を腕に抱き、その肌を露わにさせたる不埒な輩の喉元に、笛の先をば宛がって申されました。

「わしが者に何の真似じゃ?!子細によっては突き殺す」