雨で白く煙る眼下の都会(まち)を見ていた。

梅雨の長雨に塗り込められて、今日もここから出られない。浮かない一人の朝。

コーヒーから立ち上る芳醇な香りでさえ、俺の心を晴らしてはくれない。

その揺れる湯気の向こうに浮かぶ面影は、両手でカップを持ってこう言った。

「俺、雨の日は嫌いじゃない」

今、君が居てくれれば、俺の気持ちも晴れるのに。


6月生まれの君はその瞳に雨の雰囲気を纏わせて、儚気に見える時がある。

その眼から今にも雫が零れてしまいそうで。そして、溢れてしまったら、君が消えてしまいそうで。不安で。

掴まえたくなる。
消えて仕舞わない様に掴まえて、8月生まれの俺の熱さで雨雲を払い退け、君の笑顔を抱き締めて…。


ああ、ガラじゃない。こんなことうじうじ考えてるなんて!

俺は思考を中断させてコーヒーを飲み干した。

開け放っていたカーテンを閉め、勝負服に着替える。スマホをタップする。

「ニノ、今から行く」

スマホから聞こえた声は、
「どうしたの?!」
なんて驚いていたけど、
「わかった」
と、言った声は笑いを含んでいた。



ニノのマンションに向かう途中で昼食用の食材を買い込んで、着く頃には雨も上がり、雲の切れ間には青空が覗いていた。

花壇の紫陽花の花が雫を纏って恥ずかし気に色づき、陽光を浴びて輝いていた。

それを見てもまたニノを思い出す。

俺を見上げ、こんな風にはにかんで微笑む様を思って、俺は、君の元へと駆け出した。

終り

   ※※※


たえぴーーです。

最近、フォローさせていただいてるna-ju。さんのお話をずっと読んでいて、どうも感化された様で、ニノが可愛くて仕方ない。

一応、末ズです。