大野は、後ろを向いて立つ、2人の櫻井の背中を見つめながら、左側の本に掌を押し付けた。その後、本を持ち上げて、摩ったり、何度も持ちかえたりして、満遍なく “匂い” を付けた。

  その一部始終を、ニセ者は “見ていた”。

  ニセ者の体組織は一定の形も機能も持たない。丸でアメーバの様な生き物だった。
  裏を返せば、全ての部位が全ての機能を持つことが可能だった。
  ニセ者はこっそり頭の後ろに視覚を移動させ、大野の行動を見ていたのだ。

「はい。じゃぁ、こっち向いて、匂いを嗅いで下さい」

  櫻井A、Bが相葉の指示でゆっくり振り向き、歩み寄る。
  そして、先ずはお互いの前にある本の匂いを嗅いだ。次に交代して匂いを嗅ぎ、元の位置に戻った。

「いいですか?分かりました?」

  相葉の問いかけに2人共がこくんと頷く。

「はい、では、一斉に指差して下さい…どうぞ!」
「こっち」

  2人共、左側を指した。

「リーダー、どう?」
「正解。2人共本物だ…」
  目を丸くする大野に、二宮が透かさず突っ込む。
「そんな訳ないでしょ。あなた。どっちかがニセ者なんですよ」
「確率1/2でしょ?まぐれってこともあるし…も一回やってみよう」

  松本の提案に、再び全員が立ち位置に戻る。


「ね、翔ちゃんAと翔ちゃんB。本当に目ぇ瞑ってる?ズルしてない?」

  目を瞑ったままの2人の櫻井は、相葉の声のする方へ顔を向け、うん、うんと頷いた。


  その間に松本は、先ほど大野が触った本をどけて、新たに2冊足し、3冊で実験を行う準備を整えた。


「じゃ、俺ら、間立とうよ」
「そだね。そうしよう」


  松本の呼びかけで、二宮、相葉、松本の3人が、櫻井と机の間に立つ。

  そして、今度は全員に背を向ける形で、大野は真ん中の本に手を着いた。


  だが、次も結果は同じ。見事2人共正解だった。


(そんなことしても無駄さ。僕は全部見てんだから)
  ニセ者が心の中で呟く。



「困ったね」

  相葉が腕組みをし、小首を傾げた。


  全員が暫く押し黙った。



  フッと、二宮が表情を弛めた。そして、大野に耳打ちする。大野は擽ったそうに首を竦め、フニャフニャと笑いながら頷いた。


「も一回しよ!」