※エンジニア──大野智
ドクター相葉ちゃんと話をして、自分の部屋に帰ったら、ニノがまた、俺の部屋に勝手に入ってて、俺が飲みかけて置いてたドリンクのボトルを吸ってた。
「おい、お前、勝手に入るなやぁ。んで、勝手に飲むなや」
「いいじゃん。あなたと私の仲でしょ」
「何だ、それ?どうゆう仲だよ」
って、いつものやり取りだったんだよ。始めは。その次の台詞が変だった。
「どうゆう仲って、あなた、決まってるじゃないですか」
で、妙にもじもじしたりなんかして。それで、体擦り寄せてきた。
まぁ、ニノにケツ揉まれたり、体をぴったり付けられたりするのはいつものことだけど、何だろなぁ…今日に限って、俺、やだって思っちゃったんだよね。それで、ちょっと避けたら、懲りずに寄って来るから、又避けた。それでも寄って来たから、又、又避けた。流石に今度は上目遣いでじっと見てくるだけで寄っては来なかった。
いつもだったら、「何だよぉ」とか、言って、もっとふざけ合うんだけど、今日は違った。雰囲気が、違う。
ニノ…だけど、ニノじゃない…みたいな…?
微妙な距離を開けて暫く意識しあった。
2人の間に、珍しくシリアスな空気が流れる。
不意に、ニノが俺から離れながら言った。
「何?大野さん、ご機嫌斜め?ドクターに何か言われた?」
「いや…別に…」
「でもあれでしょ?昨日、何かトラブルがあったんでしょ?」
ニノは何か探る様な目付き。
「何があったの?」
「大したことじゃなくて…」
「じゃなくて?」
言い淀む俺に、先を促す。
「うん…作業してたら、背中に小さい隕石が当たった。別に宇宙服にも損傷なかったし、俺自身の検査結果も異常なかった」
それを聞いたニノは、うっすら笑った。
「そうなの。じゃ、良かったじゃない」
何だか言い方がわざとらしい気がする。
ニノめ…何企んでんだ?
とにかく、今日のニノは“何か”がおかしい。何って言えないけど、そう“感じる”。
ちょっとの沈黙の後、
「やっぱり、この2人の間に入り込むのは無理でしたか…」
ニノが呟いた。
「え?何?」
「いえ、もういいんです。あなたのDNAは採取しましたから」
そう言ったニノの顔は、明らかにニノじゃなかった。ニノの形をした別人。
「お前、誰?!」
俺は思わす後退る。だって恐いじゃん!
「さて、誰でしょう」
そう言って不敵に笑ったニノが、向こうの壁まで下がった。
何する気だ?
思って見ていると、ニノはおもむろに足を壁に着き、蹴伸びの要領で、壁を蹴ってこっちへ突進してきた。
「わあ~~!!」
俺は目を閉じ、頭を両手で庇って、体を固くした。
でも、一向にニノはぶつかって来ず、暫くして目を開けた時には、部屋からいなくなってた。
扉は俺のすぐ後ろだぞ。扉を開けずに部屋からいなくなったのか?!
驚いて立ち尽くしていると、扉が開いた。
「リーダー居る?」
「ニノ?!」
思わず飛び退く。
俺の行動を見たニノが、目を見開いて言う。
「もしかして、リーダーとこにも出た?」
「お前…本物のニノか?」
「そうですよ。リーダー、わかんないんですか?」
このふてぶてしさ。間違いない。本物だ。
「ってことは、ニノんとこにも何か出たの?」
「俺んとこはJが来ました」
「これは大変なことになったな」
「ええ…そうですね」
でも、台詞とは裏腹に、俺はリラックスしてた。
やっぱり、ニノは、この“感じ”だ。