※エンジニア助手──松本潤


  あー、無重力ってのは体が鈍る。

  俺は、トレーニングルームの鏡の前で自分の体をチェックした。

  なんか、また細くなったような気がする。強化ゴム使ったりして工夫しながら筋トレしてるけど、思う様にいかない。

「さぁ、もうひと頑張り…!」

  俺は気合いを入れ直し、トレーニングを再開した。
  床のベルトで足を肩幅に固定し、天井から伸びたゴムを握った。懸垂の要領で腕を曲げる。更に膝も曲げてスクワットをする。

  何回か繰り返し、じっとりと汗を掻き始めた時、トレーニングルームの扉が開いた。
  扉は、俺の背後にある。
  誰が来たかはわからないけど、他の4人の内の誰かだってことは間違いない。だから、そのままトレーニングを続けた。

  その人が俺の背中を見つめてる気配がする。

  どうしたんだろう?
「誰?どうしたの?」
  体を動かし続けながら声をかける。

  暫くして、意外な人の声がした。

「…潤」
「え?翔さん?!点検は?」

  俺は体の力を抜いた。天井と床の間で、万歳の形で止まる。
  少し息が上がってる。

  その汗ばんだ俺の背中に、翔さんの手が触れた。次いで、襟首に額を押し付けられた。

「翔…さん?」
  え?泣いてるの? 
「何か…あった…?」
  背中に意識を集中する。

「…潤に…お願いがあるんだけど…」
  思い詰めた様な声。
「何?…何か、大変なこと?」
  翔さんが仕事そっちのけで来るなんて、余程の事なんだろう。

「うん…大変っていうか…恥ずかしいんだけどぉ…」
「恥ずかしい?」
「うん…」

  肩にあった手が、おずおずと、脇を通って胸の方へ回って来た。
「な…何してんの?!」
「…………」
「ええ?!」
  俺の質問には答えないで、翔さんはとんでもないことを耳打ちした。

「俺…初めてだから…」
  そう言いながら俺の胸を弄りだした。
「上手く出来るか、自信ないんだけどもさ…」
「ちょ…ちょっと待って!翔さん、あなた、自分が何言ってるか…!ちょっと、やめてよ!」

  うなじにキスされた…!