船内に軽やかな音楽が流れた。

「あ…もうこんな時間か」
「じや、お開きにしますかね」
「あ~、今日も負けたぁ」
「ハハ…リーダー弱過ぎ」

  口々に言う様子をにこやかに見ながら、オペレーターの青年が慣れた手つきでカードをまとめ、箱に収めた。そして、それを壁の収納スペースに仕舞った。

「じや、俺、部屋戻るわ」
  オペレーターの青年が出て行った。
「リーダー、昨日の船外活動後の検診結果出てるよ。医務室来て」
「はいよ」
  ドクターとエンジニアの2人は、連れ立って遊戯室を後にした。
「さあ、じゃぁ、仕事しますか!」
  伸びをしながら立ち上がったのは、航海士。
「点検?」
「ん」
「毎日大変だね」
「これしとかないと、我々、この宇宙空間で迷子になっちゃうからね」
「ご苦労様です」
「いや…俺だけが大変な訳じゃないから」
  航海士が笑うと、エンジニア助手も微笑んだ。

  2人の笑顔に、一瞬、そこが明るく輝いた様だった。

「あっ、俺が重力装置切っとくよ」
「あ、ありがと。じや、お先」

  最後に残ったエンジニア助手が、ドア横のパネルを操作すると、微かに響いていた動力音が止み、彼の体がフワリと浮き上がった。

  彼は通路に出、産道の様に狭いそこを泳いで行った。



  締め切られた遊戯室は無人だった。いや、その筈だった。


  そこの床の隅で、得体の知れない何かが、ムクムクと沸き上がり、ある1つの形を為そうとしていることを、まだ誰も知らない…。