[no side]
「…あれ?」
向かい合って座って、大田に初めて見えた視点。
新聞に隠れていて見えなかったけれど、桜の右手に包帯が巻かれていたのが大田の目に映ったのだ。
「桜さん、右手なんかケガしたの?」
「…あぁ、」
桜はまるで興味がなかったかのように、冷めた瞳で右手に目をやった。
以前、大田のファンだと顔を輝かせて迫ってきたのが嘘のようだった。
「昨日、ちょっとコーヒーを溢してしまいまして」
「大丈夫?どれくらいで完治?」
「約2週間の軽い火傷なんで大したことないですよ。
こんな包帯、大袈裟なんですけどね。
なので、ご心配なく」
「…そ…か」
会話は途切れる。
寄せ付けないオーラを桜から感じて、大田は声を詰まらせてしまった。
「…あの、ごめんね?
ファンだって言ってくれたのに急で…」
昨日の会見に責任を感じ、声を絞り出す。
「…いえ、気にしてませんよ」
一度も顔を上げず、目を合わせないで応える桜。
顔は笑っているが、目は笑っていない。
「あ、ライブも俺が勝手に始めたことから全然いいし。
桜さん、仕事忙しいみたいだから…」
「別に…。浮かれるな、って自分のやるべきこと思い出しただけです」
「…そっか…。ほんとにすみません、ガッカリさせちゃって…」
「……」
「…桜さん?」
ようやく新聞から目を離し、桜が顔を上げる。
…なんか別人みたいだな…。
目が合った桜を見て、大田は思った。
「…それより、大田さん」
「ん?」
「どうして事務所を辞めたりしたんですか?」
「…は?」
大田は目を丸くした。
質問の意味がわからなかった。
「え、聞いてどうすんの?」
大田がどんな理由があって事務所を辞めようが、桜には直接関係のない話なのだ。
ただ、“事務所に嫌気がさしたから。”
そんな事情を桜に問われる意味はまったくない。
「…いや、やっぱりいいです。
俺、仕事に戻ります」
桜は大田が答える前に話を中断させた。
新聞をたたみ、即座に席を立つ。
「え…、あぁ、また今度」
桜は真顔で大田を一瞥し、サッサと会計を済ませて、店を出ていった。
「…?なんだ?」
「おっ、なんだ、一気に寂しくなったな。
お前1人か?」
「マスター…」
大田がポカーンと呆気にとられていると、マスターが後ろから顔を覗かせた。
「あ、カレー美味かったです。
ご馳走さまでした」
「いや」
「あの…、閉店したあと、ちょっと時間いいですか?
マスターにお話があって…」
大田がカフェに足を立ち寄らせたのは、昼食と4人への報告だけではなかった。
「?わかった。じゃあ、22時にもう1回店に来てくれ」
「はい。すいません、お忙しいのに」
To be continue…
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