「このままやっちゃう?」
決して軽いノリで言った訳では無いと思う。きっとこれが彼の精一杯なんだろう。飄々とクールにかわす人だと思っていて、だけどダメ元でした告白に真摯に向き合ってくれた櫻井さんはノリだけでこんな事は言わない。絶対に。
「朝まで寝かせてあげられないかもしれないけど、いい?」
感情は爆発寸前。だけど勢いだけでやるのは違う。いくら共に生活をしているからと言って、あくまでもお試し。このお試しの1週間で今後のオレたちの何かが変わるかもしれないと思うと感情のままにはいけない。
本当なら初日から。
でもさすがに初日はマズいと寝不足の胃に大量に酒を流し込んだ。土曜以降、頭も体もどう足掻いても求めてしまう感情を彼の体を強く抱きしめる事でようやくセーブをかけたと言うのに。
「一応聞くけど、俺ってどっち側?」
了承をしておきながら、やり方は分かるのか、など云々と。だけどもう我慢の限界。この人がまたする上目遣いはわざとなのだろうか。他の人にされるそれはあざといとしか思えないのに、この人にされると煽られているようにしか思えない。
「オレに抱かれてくれませんか?」
彼からの煽りに負けないくらいの殺し文句になっただろうか。どっち側かという櫻井さんからの問いに答えは一択しかないと分かってもらえていると思っていたけれど。告白の返事に1週間という時間をかける慎重さ且つ同性同士のセックスへの免疫の無さにまさか自分が当人になる日が来ることに気付きもしなかったのかもしれない。
「抱かれんのはいいけど、優しくしろよ」
それなのに彼からの答えも一択だった。否定とまでは言わないけれど、躊躇う態度と、考えさせて欲しい、くらいのことは言われるかもしれないと覚悟はしていたのに。
「約束する」
言葉は短い。好きな人と心を通わせることに長い言葉はいらないのかもしれない。上辺だけの関係はそれを誤魔化すためによく喋ったように思う。
「じゃ……、どうぞ」
はにかみながらオレに向かってそう言った櫻井さんがものすごく綺麗だった。
優しいセックスってどんなのだったかな。キスをして適当に甘い言葉を言い体に触れ、ある程度のところで相手の体にねじ込めば成立する。
欲の為にする行為は情けないけどこれくらいの記憶にしかない。誰かの事を無我夢中になるほどに欲しいと思った事がなかったのかもしれない。その時々ではちゃんと好きだと思っていたのに。
「だから……首に付けんな」
こんな風に誰かの肌に痕を残した記憶もない。もしかしたら若気の至りであったかもしれないけどあくまでも興味の段階。自分のものであって欲しいと言う意識ではなかった。
「脱がせていい?」
「ダメー」
「え?」
「はは!嘘嘘。どうぞ?って言うか自分で脱ぐし」
括ったらしい腹は潔がいい。脱ぐために起き上がろうと体に力が入るのが分かるけど。
「だめ。オレが脱がせたい」
「え?あ、そう?……なら、そうする?」
「ん……。手、上げて?」
マットに沈む彼にそう言って少しづつTシャツを捲る。段々と見えてくる肌に、初めて見る訳でもないのにする興奮が半端じゃない。
「なんか、すげー恥ずかしいんですけど」
ちゃっちゃと脱がせろと櫻井さんは言うけれど勿体なくて出来ない。見えてくる透き通るように白い肌にオレが付けまくった痕が紅く無数で、まだ何もしていないのに勃つ体は痛い。
「……今すぐ入れたい」
「あ?待て、先走んな」
さすがに速攻は怖いから、と言う声は凄く優しい。既に付いている痕に唇を這わせるオレの頭を撫でる手もめちゃくちゃに優しくて
「大丈夫。絶対怖いことしないから任せて」
「ほんとかよ」
「あ、信じてない?」
「んーーーーーー」
「あーーー、信じてないでしょ!」
オレとのこれからする行為を怖がっているようには全く感じなかった。
シャツを脱がせて本当ならもっとその肌を見ていたかったのに、オレに向けて広げられた両腕は抱きしめられる事を待っている。
「相葉?」
「ごめん、見蕩れた」
「はは、何にだよ」
綺麗に笑う櫻井さんに欲情する。だから焦るように自分もシャツを脱ぎ捨てて、肌を重ねお互いの体に隙間が少しも出来ないくらいに抱きしめた。
「お前の肌、すげー気持ちいいな」
ココもすげー綺麗。そう言って櫻井さんがオレの左肩に触れた。男だし別に気にしないようにしていたその痣を綺麗だと言われたことは無い。
「綺麗だな、ほんとに。生まれつき?」
その痣に唇をつける櫻井さんがその場所を小さく何度も吸うけれど、それだと痕は付かない。
「もっと強く吸わないの?」
「……ん。だって付くだろ?」
「付けて欲しいんだけどなぁ、オレにも」
柔らかな櫻井さんの唇が気持ちいい。キスをする時とはまた違う感触が左肩からオレを熱くさせ、自分にも櫻井さんの痕が欲しいと思ってしまう。あとで見た時に恥ずかしくなるくらいに、櫻井さんの体に付いているのと同じくらいに。
「人前で脱げねぇぞ?」
「脱ぐ予定ないでしょ?」
「お前、忘れてない?」
「何?」
「週末、っつーか日跨いだから明日明後日?社員旅行だぞ」
どうしてくれんだよ、と櫻井さんの声がオレを睨んでいる。
「忘れてた」
「だろうね」
「マジか。マジで忘れてた……ごめん」
これはさすがにと焦るのは、それくらいに櫻井さんの体に付けてしまった痕がやばいから。もし見られたら量も色も誤魔化すことは不可能。
「ばーか、嘘だって。別にいいよ。風呂入らないから。部屋にシャワーくらいあんだろ」
だけど道連れ
そう言った櫻井さんが、左肩ではなく右の肩に痕を付けた。痣よりも目立つかもしれないと思うくらいに、柔らかな櫻井さんの唇がオレの肌を痛いくらいに強く吸った。