未完 | 櫻葉で相櫻な虹のブログ

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ただ抱きしめ合うだけでいい。





お互いの体温を確かめ合うだけでいい。





その長い腕でただ、自分の体を包み込んでくれるだけで十分。他はいらない。





好きな人と抱き合い、好きだと本当に思える人と体温を移し合う事が、酷く安心するという事をこの歳の今、初めて知った。








「雅紀」




「ん?」




「あったけぇな、お前」






特別に寒い日なわけじゃないのに。体が冷たいわけでもないのに。






「しょーちゃんもあったかいよ」





ただ抱きしめられる体がものすごく暖かくて泣けた。







「泣き虫だよね、最近のしょーちゃんって」






確かに最近特にそうかもしれない。ダメだと思っていても涙が出るのは歳のせいなんだと各方面で言い訳をしてきたけれど。






「うるせーよ」






だけどこの男の前では特にそう。耐えようとする事すら出来ない。喜怒哀楽の感情がそのまま出てしまうのは本当は不本意なのに。






「ふふ、うん。うるさいね、オレ」





「そうだよ。うるせーんだよ」





「うん。そういう事にしてあげる」






そう言って、俺の何もかもを知っているような口振りで優しく笑って俺の体を強く抱きしめるから更に泣けた。







抱きしめられる理由は無かった。お互いそんな素振りは無かったと記憶している。だから何故あの瞬間に雅紀が俺の事を抱きしめたのかは分からない。





だけど突然の出来事に俺は拒否拒絶をしなかった。抱きしめられる事を簡単に受け入れたのは、雅紀のその行為があまりにも自然だったからなのかもしれない。





そして、もしかしたらその事を俺自身が望んでいたのかもしれない。理由なんて無く。





だから、今オレは雅紀の腕の中で泣いているんだろう。恥ずかしいという感情すらなく。ただ流れる涙をそのままに。





ずっとこのままが良い。この男の腕の中にいることが当たり前でありたいと、そう思いながら。







「しょーちゃん」





「……ん?」






この極上の空間の中で、ずっと甘えながら泣いていたい。柔らかな心臓の音と甘い声に包まれて。






幸せすぎるこの気持ちと一緒に。
















可愛いね






なんて言ったら怒るんだろうな。怒りながらも多分照れながら「可愛くねぇよ」って言うんだよ。可愛い顔をしながら。そういう人なんだ。






「泣き虫だよね。最近のしょーちゃんって」






オレの腕の中でまるで子供みたいに泣くしょーちゃんの感情はきっと色々。ひとつじゃない。悲しみも辛さも、もしかしたら喜びも安心も。






「うるせーよ」






その全部をオレの前だけで出してくれたら良いのにと思う。全ての喜怒哀楽を。しょーちゃんが思う様々な感情を包み込んであげられる自信がオレにはあるから。






「ふふ、うん。オレ、うるさいね」





「そうだよ。うるせーんだよ」





「うん、そういう事にしてあげる」






口は悪い。だけどオレの腕の中から逃げていかないこの人はもう、オレの手の中にいる。いてくれる事を選んでくれたんだと思う。オレの背中に腕を回し胸元に顔を埋めながら泣く姿にそう確信した。








めちゃくちゃ大切にしてあげる。





オレ無しじゃ生きていけないように。





心も体も全部、オレだけを欲しがるように。オレの前だけで泣いて、オレだけの身体を求めるように。





この先の一生の全てを。







「しょーちゃん」





「……ん?」






抱きしめ合うだけでは得ることの出来ない極上を、貴方の体に刻み込みたい。





「まだ泣き止まない?」





「え……?」






その涙と一緒に。





「なんでもない。やっぱりそのままが良いや」





快楽と言う名の愛にふたりで溺れるのも悪くないと、貴方とだから思えるんだよ。