理由 1 | 櫻葉で相櫻な虹のブログ

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時々思う。




どうしてこの人、笑ってんだろう、って。




こんなにも面倒で辛い状況にいるのに、何故笑っていられるんだろう、って。



 




『あ、うっま!これ、超美味くない?!』




でもやっぱりいいな。テレビの中に見るこの笑顔に救われる人間がこの世の中に何人いるんだろう。少なくともここに一人は確実にいる。




「ほんと美味そうに食うなぁ」




彼に支えて貰える人が羨ましい。あの笑顔を自分だけのものにできる人が心底羨ましいと思う。それが自分だったらいいのにと思ってしまうのは男として間違えているのかもしれないけれど。





『それではまた来週も見てくださいね!バイバーイ!』




その言葉を聞き終わってから、ぼんやりと見ていたテレビを消した。彼の出番が終わったならもう用はない。この時間からでもやるべき事は沢山ある。




「さ、仕事仕事」




仕事と言うのは大袈裟かな。だけど全ては仕事に繋がること。繋げるため。今の状況が云々とかそんな事は関係ない。今やるべきことをやる。いつの日かの為のトレーニングだって大事な仕事のひとつ。毎日の積み重ねこそ。歌も体作りも。





「……だからさ、集中……しなくちゃだろ?」





だけど思わず出た独り言の原因は分かっている。やるべきことは沢山。




だけど。




彼が振ったでかい手が、長く細い指が、凄く綺麗だった。




彼の笑顔が憎らしいと思ってしまうほどに美しかった。





それが集中出来ない事の原因。彼の全てはどんな時でも俺の頭をいっぱいにする。










「しょーちゃん!!」




テレビ局で会うなんて最近ではもう滅多に無い。あえてそうしているのは自分達の意思でもあるけれど。だけどたまたま。誰がキャスティングしたのか、緊急で組まれた特番は久しぶりに相葉君と一緒だった。





「はは!声でかいって!つーか何?元気にしてんの?見てるよ、番組」





この人が出ている番組の全てをチェックしている。できる時はリアルタイムで。難しい時は録画を後から。要するに彼が出る番組の全てを録画しているということになる訳で。俺らしいと言えば俺らしいけど、一歩間違えたらあの穏和な相葉君すらにも怖がられるかもしれないなんて思う。ファンの人達がしてくれるのと違ってメンバーの俺がそんな事してるなんて。




だけど酒のあてに見るこの人の笑顔は極上で、どうしても残しておきたいと思ってしまうんだから仕方ない、という事にしておこう。






「えー!見てくれてんだ!嬉しいなっ。ってオレも見てる見てる!全部見てるよ、しょーちゃんの番組!あ、船舶取ってたでしょ!良いなぁ〜。今度乗せてよね!」





友達という言葉が正解なのか。それよりも家族と言った方が近いかもしれない。こんな風に会わなくなる事が増えた今でも関係が全く変わらないのは、家族のそれに似ている気がしている。





「相葉君も見てくれてんだ」




「当たり前じゃん!ニノのも松潤のもなるべく見るようにはしてるんだけどね。家康は正直まだ全部見てなくてさ。今追っかけてるところなんだよね」





色っぽい会話なんてない。それは今も昔も。だって必要ないだろ?友達にだって家族にだってそんな表現をする会話なんてしないんだから。だから当然俺たちの間だってそう。




「ニノのは?」




「見た見た!ONE DAYをオフの日に一気見した」




「まじか。ONE DAYをワンデイで……」




「あ、ちょ!違うからね?待ってよ、オレ狙ってないからね?!」





だから俺たちはこれでいい。この関係が俺たちには丁度良くて心地よくて。だから、これで正解。今までも、これからも、変わらないことの一つだといいなと思っている。










同じ空間での撮影は久しぶりだった。だからなのかえらく緊張した。恐らく傍から見ればそんなことは無かったと思う。ソツなくこなしているように見えただろう。長い経験でその辺のことを隠すのが上手くなった。





「今の問題、櫻井くんはどう思います?」




謎に苗字呼び。謎に敬語。この人が時々する。多分深い意味は無い。一瞬だけ遠くに感じてしまうこの呼び方の理由を、聞こう聞こうと思っていつも忘れてしまう。




「そうだなぁ。Aのがいいと思うけどな。相葉君は?」




固い番組じゃないのをいい事にフランクに答えれば、眩しいくらいの笑顔が返ってくるのは想定内。にしてもめちゃくちゃに眩しく思うのは、自分に向けられるこの人の笑顔が久しぶりだからなんだろうか。




「オレ?オレはね、うん。オレもしょーちゃんと同じ!Aがいいと思う!」




苗字呼びも敬語も一瞬。だからいつも聞くことを忘れてしまうんだと思う。そしてこの笑顔はやばい。向けられているのは間違いなく俺。自意識過剰かもしれないけれど、他の人に向ける笑顔とは違う、と思いたい。


 



「だよな!」




そう言って片手を上げてハイタッチを誘う。昨晩テレビの中で振っていたあのデカくて綺麗な手に触れたいと思ったから。少しでいいからこの人の笑顔を自分に分けて欲しかったから。





「やっぱり合うね、オレたち!」




だけど自分が思う想像と違った。弾けそうな笑顔でそう言った相葉君は、上げた俺の片手を掴んだ。デカくて綺麗な手で。それだけならほぼ想像通り、ほぼ期待通りだったのに。ハイタッチ予定とは少し違ったけど。





「……ん。……あ、合うね」




だけど、手を捕まれただけではなかった。繋がれた手と逆の相葉君の腕は、俺の体を包み込むように抱きしめた。









「こんなこと今やったら余計に叩かれちゃうかな」




耳元で小さく言う彼の声をマイクが拾っていないことを願いたい。焦る俺を他所に余裕な相葉君が気にいらない。





「離れ難いけど、続きは後でね?」





何のことを言っているんだろう。理解が出来ないのは俺だけなんだろうか。離れ難いと言う言葉も、続きは後でという言葉も、全くもって俺には意味がわからない。


  



「では、AかBか、結果を見てみましょう!VTRどうぞ!」




それなのに何事も無かったかのように俺から離れてMCを続ける相葉君と、彼の今の行動への戸惑いを他者に知られたくなくて平静を装う俺と。





「結果はAでした!櫻井君、正解!おめでとうございます〜!」





正解のVTRの後でまた俺を抱き寄せた相葉君のでかい手が俺の背中を優しく撫でた瞬間に





「……あ、……どうも……」





上手い返事も出来ずに俺は、このまま抱き締め続けて欲しいと思ってしまった。