桜色 41 N | 櫻葉で相櫻な虹のブログ

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「相葉さん最近来ませんね」




「落ち着いてるって事じゃねぇの?良かったじゃん」



「だと良いんですけど」





不安定な時によく来ていた相葉さんが最近来ないのは、店長が言うように良い事なんだろう。





「なに?寂しいわけ?」




頼って欲しい、なんて烏滸がましいけど、でも泣きついてくる相葉さんを放っておけないのは店員と客の関係を越えて友人だと思っているから。




「別に寂しいわけじゃないけどさ。しばらく顔見てないから」




元気にしてるなら良いんだけど。相葉さんを悩ませていた相手と上手くいっているなら、それでいい。





「確かにしばらく見てないもんな、って噂をすれば」





いらっしゃい、と店長が声をかけた先には





「こんにちは」




たった今話題にしていた相葉さんが優しい顔をして立っていた。











「予約、してないけど良い?」




変わらない口調に安心した。いくらしばらくぶりだと言ってもたった数ヶ月で変わる事なんてないか。





「大丈夫だよ?今日はどうする?」



「それさ、相談」



「相談?珍しいじゃん」





いつもの相葉さんは、自分のしたい髪型は割とハッキリと決めていた。細かい所まで要求するという意味では他の客よりも断然だったのに。





「ん。あのさ、こんな事相談されても困ると思うんだけど……」





あぁ、この感じ。困る相葉さんが嬉しい訳じゃないけれど、頼りにされる瞬間が好きなのかもしれない。




「んー?なに?」




鏡の前に座らせて、サラサラと音が聞こえるんじゃないかと思うくらいに肩付近まで伸びた相葉さんの髪に触れた。







「あ、あのね……」



「んー?」



「その……」



「なにさ」



「これ。……なるべく隠れるようにして……だけど、少し短くして欲しくて……」





伸びた髪をひとつに束ねる仕草を両手でした相葉さんの襟足に見えるそこには無数の桜色の痕。それが何なのかを理解できないほど子供じゃない。





「派手に付けられてるじゃん」



「やっぱり、そう?」



「あの時の人?」



「……ん」





鏡越しに見る相葉さんの表情が一気に変わる。入店してきた時も久々に聞いた声の時にもそんな風には思わなかったのに。





「上手くいってるなら良かった」





そんな妖艶な表情をする相葉さんに、ひとりの友人として心の底からそう思った。









そこからは根掘り葉掘り聞いた。照れながらもおれの質問に答える相葉さんは妬けるくらいに幸せそうだった。





「は?どっちも?」




「やっぱ変だと思う?」




「いや、その辺のことはよくわかんないけど」






聞けば、お相手との情事はどっちも有り、らしい。要するに抱くこともあれば抱かれる事もあるんだと言う。さらに聞けばお相手の人がどっちの相葉さんも堪らなく好きらしくてそうなっている
という事らしい。





「って、こんな話やめよ!ごめん、なんかオレ」





変なテンションになっちゃった、なんて言うけれどそんなところが可愛いとおれですら思う。おれなんかが思うくらいだからお相手の方は相当だろうし、そりゃ両方の相葉さんを見たいと思うのも理解できなくはない。





「もっと聞いても良いですけど?」



「いやいや、ダメでしょ。キモイでしょ」



「別にいいんじゃない?相葉さんなら許せる」





だってどっちも絶対に綺麗だから。行為の最中にこのサラサラな髪が揺れる事を想像するだけで納得。






「ふふ、何それ」




「別に?そのまんまの意味ですけど?」




「褒め言葉ってことにしとこ」




「ん。って、それにしてもコレなかなか凄いよ?独占欲丸出しじゃん」






襟足に見える痕は、多分これだけじゃない。タオルを巻く時に少しずらしただけで襟の下にも結構な数のそれが見えたんだから、その下にもきっと無数の痕があるんだろう。





「独占欲……かぁ」





それなら嬉しいけどね、そう言った相葉さんのその顔は自分がどれだけその人に愛されているのかをわかっている人がする表情に見えた。







「幸せそうで良かったです」





これからは髪を切りに来る回数が減るのかな。





「ふふ、うん。ありがと」




それはそれで寂しいけれど、でも相葉さんが幸せなら良いや。






「また、来てくださいね?」




「もちろん。深い話はキモイだろうけど、惚気は聞いてもらいたいからね!」





だから今までより来ちゃうかも、なんて笑って言ってくれるから。





「待ってますね」





友人として、おれまで幸せな気持ちになった。