唐突に切れた電話を耳から離した。
「本人に聞け」と潤君は言ったけれど、本人に聞けないから潤君に聞いたのに。
だけど、やっぱり期待してしまっている。潤君の電話での反応の意味がオレにはどうしてもひとつしか思い浮かばないから。
「……タイミングは最悪だけど」
思い浮かぶその意味に期待をしながらも、今日現在櫻井君との連絡はあの時からできていない事はオレを憂鬱にさせた。
毎日毎日しつこいくらいに潤君からのメッセージが届いている。
内容は決まって同じ。
『櫻井と連絡取れたか?』
この一文から始まるメッセージとあとは他愛の無いこと。それこそ天気が良かったとか、どこの店で昼を食べた、とか。
そのメッセージに
『ごめん、まだ』
オレも毎日同じようにこの一文から始まる返事をする。それプラス、潤君からの他愛の無い内容にも触れながら。
潤君からのメッセージの度に胃が痛むのは正直なところで。これだけ言われてるんだから櫻井君に連絡を入れてみようかという気持ちと。でも櫻井君から連絡が来ないということは、関わりたくない対象にオレがなってしまったのかもしれないという恐怖心と。
その狭間で揺れに揺れて結局は明日に回そうと言う結果になって何日も経ってしまった。
『あの件はどうなった?仲直りできた?』
そんな時に来た二宮君からのメッセージに飛びつきたくなった。泣き言を言いたい訳じゃないけれど、現状の自分はどうしたら良いのかと聞きたくなった。
『まだ。だけど大丈夫。今から連絡入れてみるよ』
だけどオレがした返事はこれ。今の今までめちゃくちゃに悩んでいたくせに。狭間で揺れている自分に酔って、そのくせに何も行動に移せていないくせに。
『ガンバレ!』
二宮君からのメッセージは短い言葉だけだけど「仲直り」と書いてあるその一行にきっとオレは勝手にだけど背中を押してもらったんだと思う。
もしかしたら出ないかもしれない。だって忙しい人だから。なんて、出なかった時の言い訳を自分にしながら電話をかけた。自分が傷つかないように。だって避けられてるから出ない、なんて切なすぎるから。
「はい。櫻井です」
だけどオレの予想は外れた。オレからの連絡を待ってくれていたなんて厚かましいことは言わないけれど、何度連絡しても繋がらないと言っていた潤君に申し訳ないほどに、櫻井君が出たのは速攻で、だった。
「オレ……」
「はい」
「相葉です」
「はい……」
「ごめん、電話して。……今、大丈夫?」
本当は即本題に入りたかった。だけど思い立って直ぐにしてしまった電話は相手の時間の都合を考える余裕がなかった。櫻井君が電話に出たことで急にそう思って慌てて確かめてみれば間違いなく仕事中であろう時間。
「申し訳ありません。今は難しいので……」
「あ、ごめんなさい」
「いえ、大丈夫です。後で折り返してもいいですか?都合の良い時間帯とかあればお伺いしたいのですが」
「あ、えっと……あの、えっと……、い、いつでも大丈夫です」
「では、後ほど改めてご連絡させていただきます。失礼します」
他人行儀な話し方は仕事中だから。きっとそう。だけどそうだと分かっていてもものすごく距離を感じたのは事実。そしてそれを寂しいと思ったのも事実。
だけど反対に、櫻井君からの連絡を待って良いんだと思うと、電話をかける前までのあの狭間に居た自分の重たかった気持ちは全く無くなっていて気付けば頬が緩んでいた。