「おかえりなさい、雅紀さん」
「ただいま翔くん。これお土産です」
手渡したお土産の中身は見なくても翔くんは分かっていると思う。
「あ、チョコ?」
「正解」
「やった!すげー嬉しい!今年もありがと!」
子供みたいな喜び方をして、速攻で紙袋から出した箱の包み紙を翔くんが丁寧に剥がした。
「もしかして、今年も?」
包み紙を剥がして、箱を見るだけで翔くんが言う。
「ふふ、正解です」
「マジか。すげーな、俺。雅紀さんとこの新商品の一番乗りだもんな」
なんて喜んでくれているけど違う。確かに翔くんに渡した次の年のバレンタインからの商品化は恒例になっているけれど。
「翔くんが幸せそうな顔をしないチョコは商品化するつもりはありませんよ?」
今までそんなことが一度も無かったのは奇跡なのか。それとも翔くんが優しいからなのか。それは分からないけど、もう何年も翔くんに渡したバレンタインのチョコレートは次の年の代表作になっていた。
「いや、ごめん、言い方悪かった。商品化の事は純粋に嬉しいんだよね。そうじゃなくてさ、雅紀さんが俺の事を想って作ってくれてるチョコをさ、他の誰かも食べて幸せになってくれてるってことでしょ?」
それってめちゃくちゃ凄くない?と言う翔くんの声に嘘がなくて嬉しくなる。
「そう思ってくれると嬉しいです」
優しい翔くんにまた惚れ直して、包み紙が無くなった箱を開けようとする翔くんの後ろから抱きしめた。
「すげーな」
それだけを言った翔くんが、箱の中のチョコレートを見てため息をついた。
「どうなったらこうなるわけ?虹の色?あ、違うか。えっと……赤、青、緑、黄色、紫……と白の、薔薇でしょ?これ」
すげーよ、信じらんねぇよ、と何回も言いながら長い時間箱の中のチョコレートを見ている翔くんが可愛くて仕方がなくて。
「チョコレートも良いけど、僕の事も見てくれませんか?」
翔くんの手からチョコレートの箱を離してテーブルの上に置いた。
「今年は酒入りじゃないんだ?」
テーブルにチョコレートを置いてから寝室まで我慢できずにリビングにあるソファで翔くんを抱いた。その後で裸のまま今年のチョコレートをもう一度見た翔くんが前に渡したチョコレートの事を話題に出した。
「今年はお酒無しで作ってみました。益々綺麗になる翔くんの事を形にしてみたつもりなんだけど、どうですか?」
「どうって、チョコは凄いの一言!食べるの勿体ない。ってか綺麗って俺?雅紀さんじゃなくて?」
綺麗なことにまだ気づいていないのかな。いちいちの反応に謙遜を感じないのはいつも。
「もちろん翔くんの事ですよ?薔薇が良く似合う」
「可愛いの次は綺麗……か。うーん、全然わかんねぇ」
けど、雅紀さんにそう思われるなら喜ぶべきだよな、と真剣に不思議そうな顔をする翔くんにまた欲が湧いてきそうになったけど
「あぁ、そう言えば今日来たお客さん、翔くんに少し似てんですよ」
そんな翔くんの表情を見て、昼間に来た二人組の事を思い出した。その事を翔くんに話したくなった僕はソファにいつも置いてあるブランケットで翔くんの体を包んだ。