むかしむかし、
手児奈という美しい
娘がいました。上品で、
満月のように輝いた顔は、
都のどんな着飾った姫より
も、清く美しく見えました。

その美しい手児奈の噂は
次々と伝えられて、都や、
旅人、里の若者だけでなく
国府の役人までもが
結婚をせまりました。

しかし、手児奈はどんな
申し出も断りました。
そのため、手児奈のことを
思って病気になるものや、
兄弟で醜い喧嘩を起こす
者もおりました。

それをみた手児奈は、
「私の心はいくらでも
分けることはできますが、
私の体は一つしかありま
せん。もし、私がどなたか
のお嫁さんになれば、
他の人達を不幸にして
しまうでしょう。ああ、
私はどうしたらよいので
しょうか」と、いいながら
真間の入江まできたとき、
丁度真っ赤な夕日が海に
落ちようとしてました。
それを見て、「どうせ長く
もない一生です。私さえ
いなくなれば、喧嘩も
なくなるでしょう。あの
夕日のように、私も海へ
入ってしまいましょう。」
と、そのまま海へ入って
しまったのです。

追いかけてきた男たちは、
「ああ、私達が手児奈を
苦しめてしまったのだ。
もっと、手児奈の気持ちを
考えてあげればよかった
のに。」と思いましたが、
どうしようもありません。

翌日、浜に打ち上げられた
手児奈の亡きがらを、
可哀相に思った里人は、
手厚く葬りました。