さきの、3月11日(月)の読売新聞の歌壇・俳壇から。

 

 まず、俳句。

 

 「巣作りの鴉針金曲げに曲げ」。この句の作者は、宝塚市の広田祝世さん。この句の『評』に、「鴉は知能が高い鳥だ。雑食で人間界に住み廃棄物を利用して生きる。子供への愛情も極めて深い。この句は懸命などと言わず「曲げに曲げ」と言った描写が優れている。素晴らしい表現ですし、俳句でめったに見られない光景となりました。

 

 「冬深む父投げ売りし開墾地」。この句の作者は青梅市の男性名の方。開墾地ですから山間の田畑なのでしょう。全国どこでも同じような状況でしょう。お父様は骨を折って開墾されたのでしょう。作者も農作業を手伝われたことがあるやもしれません。汗水たらした土地を手放す、投げ売りすることの無念な思い。

 

 「日脚伸ぶ病む弟へはがき書く」。この句の作者は、加茂市の女性名の方。動詞が3つあります。身辺雑報的ですが、つつましく静かでいい作品だと思います。

 

 「笹起きる音が山河を目覚めさす」。この句の作者は、東大阪市の男性名の方。この句の『評』に、「「笹(ささ)起きる」は積もった雪に耐えていた笹が雪解けで立ち上がるさま。北海道で生まれた季語。その音に大自然もまた眠りから覚める。」とあります。わたくしがときどき嫌味を書く、「季語の取って付け」ではない、いい作品だと思います。

 

 「炬燵から見上げる空に雲の旅」。「夫の手がいつしか肩に梅日和」。「蕗味噌をすこし焦がして昼の酒」。

 

 「いつぱいに蹼(みずかき)ひらき薄氷」。この句の作者は、藤生不二男さん。この句の『評』に、「着水したつもりの鴨が、氷の上で滑って慌てているのを見たことがある。彼もきっと蹼を一杯に開いて踏ん張っていたにちがいない。」とあります。

 

 「冴返る所詮はひとりこれでいい」。この句の作者は、神奈川県の石原美枝子さん。ときどきお名前を拝見するように思います。この句の『評』に、「孤独を詠んだ投句は多いが、この句は下五が力強い。「これでいい」は魔法の言葉。「これでいい」と言ってみるだけでも多分いい。」とあります。この句の選者は、正木ゆう子さん。

 

 次は、「大試験」の句3句。「大試験友と語らん出来不出来」この句の作者は、京都市の男性名の方。「大試験終へて食ふのか眠るのか」。この句の作者は、奈良市の男性名の方。「新品の消しゴム二つ大試験」。この句の作者は、高岡市の女性名の方。

 

 長くなりますので、今回はここまでで、中ぐくり。