モーさんの、ある休日。

おばぁが酷い顔をしてドカドカと歩いてきて
また始まったかと、身構えた。

「ぜんっっっぶ!全っ部、別にしよ!!
    あんたらの離れの工事が終わったら
    風呂も別になるやろ?その前に全部別や!」

意味が分からない。
モーさんは私を見る。私は首を横に振る。
何も知らない。

「食事も作らんでええ!
    わたしら二人でやっていく!!」


なにがなにやら。


さて、何かモーさんといざこざでも?
……この三日は、なかったはず。

イラッとしたモーさんに気づいて制し
わかったよー、と一先ず離れる。

すぐさま本家嫁に電話をして、何か知らないか
とおたずねした。
おばぁが愚痴をいう相手は、だいたい本家嫁だ。

「あーー、もしかしたら。
    好きなものは自分で買って食べたらええ、
    言うたからかなぁ……」

なるほど、なるほど。
そこから飛躍的な思考と跳躍力を発揮して
全部わたしらでやる、至ったと。
あーーーーー、うん。

「年寄りの食事は難しいやろ?」

はい、確かに。
私はあまり料理が得意じゃないので
口に合わなかったかもしれません。
すみません……。

「えらいで!ちゃんとやってたやんか。
    お母さんの食べられんもの、多いしなぁ」

フォローに感謝しつつ、電話を切る。

薬膳やらも調べたが、私の底は浅い。
それに味付け以外にも、上膳据膳の状態が
気にいってないなぁ、とは思っていた。

おばぁはだらだら、したいのだ。
だらだら食べて、だらだらテレビを見たいけど
女中(私)が控えてるからそうもいかない。

まぁ、おばぁが料理を作りたいというならば
別に止めることはない。
認知症に、献立を組み立てることがとても良い
と聞いたことがある。

モーさんも、私が楽になるしいいんじゃない?
と、おばぁの話に同意していた。


ただひとり、真っ青になった人がいた。

おじぃだ。


おばぁが自分で料理するって。
今まで私の拙い料理を食べてくれてありがとう
と言った途端に、蒼白になった。

「なーんでーー、やーー。
    なに、勝手に、いうてるんやー。
    ワシー、きいてへーんでー」

それを聞いたモーさんが渋い顔をする。

「あんな料理じゃなぁ……」

あんな料理。

あんな料理??

そういえば、私が寝込んだ時はモーさんが
料理を作ってくれた。
手料理……。
おばぁの手料理を見たことがない。
そして、どんなものかも聞いたことがない。

「ひーど、い、でーー!
    食えん、でーー?
    ほんっま、ひどい、でーー」

おじぃが珍しく、熱弁をふるう。

「あれは……なぁ。気の毒や。
    ごめん、おとうちゃん。
    俺がおかんに何言っても聞かんから……」

なんだ、なんだ。
二人して、なんだ。

「あれは、料理じゃない。ゴミや」
「そうやーぁ」


!!?

「まずっっっい。
    だから俺、自分で稼ぐようになってから
    ずっと外食だった」

そんな理由だったのか!?
初耳なんですけど。
え?それで太ったの?そこまでパンパンに?

「よくて、スーパーの惣菜が並ぶだけか、
    味付けの濃い弁当屋」

それ、料理じゃない。
というより、病人に弁当屋の弁当?!?!
二人とも高血圧なのに!?
私には、減塩減塩減塩減塩言ってたのに!??

驚いて声も出なかったが、
翌日の夜、実物を見て焦った。


煮すぎて?ぶよぶよの魚の身が浮いている。
油揚げが千切られて浮いている。
茶色いどろどろした汁はかなりとろみがある。
呑みこみやすい老人食……?だろうか。

妙な臭いがする。生臭い。
香ばしくもない、味噌っぽくもない。
ご飯粒も一緒に煮られているようだ。

それらが揺蕩うオンボロ鍋が、
ドン!とテーブルに置かれている。
海賊王風に、ドン!

オンボロ鍋は、どこから拾ってきたの?
というくらいボロボロで、べこべこで、
ビジュアル的には戦時中に転がってるやつ。
疎開やらの特大リュックに下がってるあれ。

物を大事にする精神は素晴らしいけれど
食卓に乗せて、食欲をそそる鍋ではない。
決して、おしゃれなやつじゃない。

取り皿もない。
鍋を直接スプーンで掬うスタイル。
スプーンが鍋に二本刺さっている。
刺さっているんだ。

その隣には、スーパーで買ったらしきお惣菜が
ビニールが半分かかったトレイのまま
食卓に置いてあった。

それを見つめるおじぃが、悲しそうだ。


えーーーー!


うっそー。


本当にひどいーーーーー!