今日もいい天気だ。
 アパートの窓から見える景色は平凡な街並みだがふりそそぐ陽光は眩しかった。
 でもわたしにはお金がない。
 時間なら売るほどあるが誰も買ってくれないだろう。
 金に困っても清廉潔白な人生を送りたい、よって手軽に金になるようなことに身を
 落とす気はない。
 というとかっこいいが自分の容姿にも自信はない、それだけだ。
 就職氷河期の真っただ中に大学を卒業したまま、バイトで食いつないでいる。
 男だったらもっと事は重大なのか、それとももっと選択肢が増えるのか??
 どっちでもいいか。
 これが一人暮らしの女の部屋かと我ながら思う足の踏み場を探しながらの移動。
 まだライフラインであるケータイ、電気、ガス、水道は止められていないだけましじゃん。
 顔を洗ってふと玄関とも呼べないような狭~い空間を見ると何か落ちている。
 ドアのポストから入れられたもののようだ。
 やや厚いB5位の封筒だった。
 宛名も切手も貼られていない、それなら下の質素なポストに入っているはずだし。
 メール便でもない。
 何か気持ち悪いなと思いながらもカチカチと爆弾の時計音もしないし慎重に開けてみた。
 中からは丁寧に包装された包みと一枚の紙切れ。
 これを今日中に有効に使え、そうしないと明日天罰が下り命をなくすだろう
 なんだこりゃ!
 これって?
 包装されたものを急いで開けた。
 うわっ!
 指が切れそうなピン札の束。
 福沢諭吉・・・一万円札の札束って・・・100まんっ!
 初めて手にした。
 ふと一枚目をめくってみた。
 その下は白紙ではなかった。
 わたしに誘拐犯との身代金の受け渡しをしろというわけじゃあない。
 いや、誘拐なら本物を使うだろ、ТVドラマじゃあるまいし。
 それに今のご時世身代金100万って飼っているペットにだって安過ぎる。
 あーー!違う!これをどこかに持ってこいじゃなくて使え?
 
 もう一度紙切れを手に食い入るように見た。
 誘拐犯が送ってくるやつと同じように新聞の活字が切り取られた大小さまざまな文字
 が貼ってある。
 わたしを試すドッキリカメラか?
 汚い部屋の中を見回す。
 家具などほとんどないのでカメラの隠し場所などない。
 ちょっと待て、わたしは売れないお笑い芸人じゃない。
 芸能人は芸能人でもこの汚い部屋にカメラをセットさせるマネージャーなんてお笑いしか
 あり得ない。
 
 ああああ、訳がわからな過ぎて思考がおかしい。
 これは警察に届けるべきか。
 
 しかし、久々に見た一万円札、それも束。
 使わなくてはって脅迫されたので使いました。
 だって怖いじゃないですか。
 これで大義名分にはならないか?
 十分なるだろう。
 
 おそらく身勝手な解釈とはわかっていたが100万の誘惑にすでに心は使わなくてはいけない
 との使命に囚われ、半分は浮かれていた。
 でも問題は「有効」・・・このキーワードをクリアしなくては。
 


 
 第8回 連載小説最新話 トーナメントにエントリーしております。
 
 
 宜しければ応援して下さいm(__)m