2017年のアメリカ・イギリス映画です。
主演は重鎮ジム・ブロードベント。
つい最近もこの方のこと書きました。あっ、そうそう、「パディントン」に出てたアンティークショップのご主人でしたね。演技もうまいからなのでしょうけど、得な顔立ちの人ですね。いい意味でハンサム過ぎない感じ。どんな役もハマる気がする。




ネタバレしますのでお気をつけ下さいませ。



ジム・ブロードベント演じるトニーの回想と現在を交えて物語が進みます。

ある日のこと、トニーに昔お付き合いしたベロニカのお母さん、セーラから遺言状が届くのです。遺されたものは500ポンドと何かわからないけど添付品があるらしい。「エイドリアンの親友に心が痛むかもしれないけど、遠い昔の思い出の品です。奇妙に思うでしょうね。自分でも理由はわかりません。あなたの幸福を祈っています。」こんな内容の手紙でした。添付品は同封されていなかったので、セーラの弁護士を訪ねると、そのモノは誰かの日記ですが、娘のベロニカが管理していて渡してもらえないとのことでした。

この時点で、弁護士や娘(ミッシェル・ドッカリー)とのやりとりからトニーは自己中で、思いやりにやや欠ける人物かなと受け取れます。でも、そういう人、多いよね。日本人でも、おじさんは特にそんな感じの人多い。やたら人に親切だと、下心ある?とかセクハラ?とか思われがちな昨今ですから。
トニーの場合は繊細さは感じられないのでただ鈍感なだけなのかもしれません。

トニーは元妻のマーガレット(ハリエット・ウォルター)にベロニカとの経緯を話し始めるのです。

あるパーティーで若き日のベロニカ(フレイア・メイヴァー)と知り合った若き日のトニー(ビリー・ハウル)はベロニカの家に泊まりに行きます。

イギリスのドラマでは、よそのお宅に泊まりで滞在するのをよく見ます。日本では少し昔であってもあまりないことです。ミス・マープルなんか、自分ちで事件を解決するより、他所で解決している方が多い印象です。友達の家や旅先で知り合った人の家に普通に滞在するんですよね。


その時にトニーはベロニカの母、セーラ(エミリー・モーティマー)の好意を少なからず感じ取るのです。ママとは言ってもベロニカとは姉妹のように見えるので実際も若いのかもしれないです。トニーの記憶ではこれ以上セーラとの思い出はなさそう。

現在。トニーは何度も弁護士を介してベロニカに手紙を書きました。弁護士からは日記はエイドリアン・フィンの日記で、それをトニーには渡す気にはならないとのベロニカの言葉を伝えられます。


学生の頃、トニーは転校生のエイドリアン・フィン(ジョー・アルウィン)と親しくなります。エイドリアンも少し変わった子で、歴史の先生(マシュー・グッド)と自殺した学友の自殺原因について議論をしたりします。
エイドリアンには哲学的なもの、内向的であってもしっかりと意見を持つ強さも感じました。

ベロニカには焦らされた挙句私達の関係に先が必要?なんて言われてしまうトニー。失恋なのかな。
トニーのもとにエイドリアンから「ベロニカと付き合おうと思う。」という内容の手紙が届きます。「心配ご無用!全く構わないよ」という内容の返事を出しました。

ここでエイドリアンが自殺の準備をする場面が。共通の友人二人に自殺したエイドリアンの最後に会った時の話や自殺時の様子を聞きます。

現在。その旧友二人と久しぶりに会いました。ここで自分の記憶が間違っていたことを知るトニー。エイドリアンにベロニカを紹介したのはベロニカの兄と思っていたけどトニー自身でした。
二人の助けでSNSのアカウントを作るトニー。どうやらお兄さん経由でベロニカと会うことに成功。


やっと会えたベロニカ。エイドリアンの日記は焼却したと渡してもらえませんでした。別れ際、ベロニカは封筒を渡してきます。トニーは納得できずにベロニカを尾行します。

トニーがベロニカに渡された封筒の中身はトニーからエイドリアンとベロニカに宛てた手紙でした。「心配ご無用」のカードは破り捨て、怒りに任せたひどい中傷の手紙を送っていたのです。母セーラのことも書いてありました。
記憶って自分に都合よくねじ曲がるんですね。


夏目漱石の「こゝろ」を思い出しました。日本で一番か二番に売れている小説らしいので皆様もご存知でしょうが、『先生』がその昔親友『K』を出し抜いて『お嬢さん』と結婚することになりましたが、そのことが原因か、『K』は自殺してしまうのです。生涯、それを妻となった『お嬢さん』に打ち明けることもできず、ついには『先生』も自死を決意し遺書を語り手である『私』に渡す。そんな最後でした。

トニーの場合は『先生』のように気に病むこともなく、鈍感にもエイドリアンに手紙を出したことさえ忘れていた模様。まあ、盗られたのはトニーの方ですからね。「こゝろ」の『先生』とは立場が真逆でした。

もはやストーカーと化したトニーはベロニカに接触します。あまり感触よくないのに懲りないトニー。

ベロニカにエイドリアン(アンドリュー・バックリー)という障がい者の息子らしき人物がいることも突き止めます。名前と容姿から自殺したエイドリアン・フィンの息子であると察します。

ベロニカと会う機会を得ました。が、やはり素っ気無いベロニカ。エイドリアンJr.の話をすると怒ったように去りました。

エイドリアンJr.を張って、彼がベロニカではなくセーラの息子と知ります。

娘スージーの出産に立ち会うトニー。スージーの頭を撫で続けてます。ハゲるからやめてあげて。

出産前にスージーにもことの顛末を話しました。

妻マーガレットにも、気持ちを吐露します。君に謝りたい。離婚してもスージーと君は宝物だ。自分を変えたい。


エイドリアンとベロニカ、そして母セーラに起きたことはトニーの手紙がトリガーとなったのでしょうか。
そもそもトニーが親友にベロニカを盗られて、どんな気持ちだったでしょう。悪意に満ちた手紙をもらったとしてもそんなの受け入れるしかなかったのでは?何十年も持っていてトニーに渡すベロニカもまた無神経なのでは?手紙は返すくせに日記は渡さないって、いったい日記には何が書いてあったの?怒ってるなら渡せばいいのに。何より中身がわからないのはもどかしいー。ベロニカ話さな過ぎ。話さないからトニーが思い込み激しくなるんじゃない?

要するにみんながみんな、自分勝手で自己中で、思いやりにかける人ばかりな気がします。
繊細だったり鈍感だったり、めんどくさいやつばかりだ。
トニーにお金や日記を遺したセーラの気持ちもつかめません。好意に応えなかったから?エイドリアンに出した手紙のことを知っていたのでしょうか?

ベロニカとエイドリアンとセーラはまるで呪いでもかかったようにトニーの手紙の通りになってしまったようにも思えますが、実際のところどうだったのか。ベロニカはなんであんなに怒っているのかよくわからないままでした。心変わりをした時にベロニカはどんなだったんでしょう。とっくに振っていたのにトニーにつきまとわれたりしてたのかしら?そうでもないと怒りの訳がわからない。手紙だけが理由というのも妙です。それとも言葉とはそれほどまでに凶器となるものなのでしょうか。そうなのかもしれません。そこがポイントなのかも。手紙は残るので気を付けないといけませんね。

一連の出来事からトニーは人に対する態度を改めたようでした。
家族との関係も良くなったみたいだし、ベロニカにも自分本位でない思いやりのある手紙を出せたみたいですね。

謎がいっぱい残ったけれど、今更ながらもトニーがいい人になったので、めでたしめでたし?もっと若い頃に気づけばよかったのにね。


ミッシェル・ドッカリーとマシュー・グッド、最前列右に二人並んで座っています。


「ダウントン・アビー」のメアリー役のミッシェル・ドッカリー(本作では娘スージー)とメアリーの再婚相手ヘンリー・タルボット役のマシュー・グッド(本作では歴史の先生)二人の絡みこそなかったけど、同じ映画で見て「ダウントン」を思い出しました。ヘンリー・タルボットのおばさん役を演っていたハリエット・ウォルターもトニーの妻役で出演していました。
「ダウントン・アビー」シリーズが終わってしばらく経ちますが、映画が公開されるようなので楽しみにしています。