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村田後のミドル級とキトロフのプロ入り

村田後のミドル級とキトロフのプロ入り
 
 先月中旬から2週間近くにわたって行われた世界選手権は、27日に閉幕式を迎え全日程を終了しいる。そんな中、村田諒太後のミドル級では、地元カザフスタンのジャニベク・アリムクァウリーが初優勝を飾っているが、前回大会のミドル級決勝で、その村田を退け優勝したイェフゲン・キトロフ(ウクライナ)は、今回出場していない。
 そして、今から遡る事約6ヵ月前、ヨーロッパ選手権に出場したキトロフは、準決勝で、先月の世界選手権決勝でアリムクァウリーに敗れたジェーソン・クゥイグレー(アイルランド)と対戦し、番狂わせの判定負けを喫している。試合後は、判定に不服なキトロフが、暫くリングに留まり、観客に向け自分が勝者だという事を強くアピールしていたが、この試合のキトロフは、フットワークとスピードのあるクゥイグレーに対し後手に回る場面が多く、クゥイグレーのシャープなパンチを被弾するなど、試合を通じてペースを握られていた感があり、個人的には、採点は妥当だったと思う(クゥイグレーは、決勝で、2011年世界選手権でキトロフに強烈に倒された末、2ラウンドRSC負けしているボグダン・ウラトニに2-1の判定で勝利し優勝している)。
 他方、この敗戦が、世界選手権のウクライナ代表選考会にどう影響したかは不明だが、キトロフは既にニューヨークでプロデビュー戦を行う事が決定している。プロ入り後は、名匠バディー・マクガートが付き、来たる12月18日のプロデビュー戦に備えていく事になっているが、キトロフの実力とポテンシャルがどれだけ高いかは、今年2月に行われた国際大会で、上述のアリムクァウリーを、30秒にも満たないタイムでKOしている事からも窺い知れるし、フィニッシュ・ブローに至っては右ボディー・アッパー1発である。
 しかし、クゥイグレー戦での敗戦を見る限り、このままでのボクシングスタイルでは、プロ入り後、順風満帆に行くかは疑問だし、少なくとも、パンチ力とタイミングに過信したスタイルから脱却する段階にきているような気がする。
 というのも、ウクライナ代表に定着し始めた頃から、キトロフは、当時チームメートだったワシル・ロマチェンコの影響からか、左右斜め前に小さくダッキングしながら、相手が出てきたところにパンチを合わせるスタイルを確立し、そのスタイルで2011年度の世界選手権を制しているが、その後は、相手に研究され、フットワークを多用する選手を攻めあぐねる場面が増え、結果欧州選手権での敗北に繋がっている。しかし、これ以前のキトロフは、積極的に距離をつめ、相手を打ちのめすボクシングをしており、2010年のヨーロッパ・カップ決勝では、フットワークを多用するアンドレニク・ハコビアン(アルメニア=2009年世界選手権銀メダリスト)を、半ば強引に攻め、強烈な右フックでスタンディング・ダウンを奪うと、最後は再びねじり込む様な右フックを叩きこみ、2ラウンドRSC勝ちしている。
 プロでは、一足先にプロ入りした村田をはじめ、ロンドン五輪のミドル級メダリスト達が、いずれも業界最大手のプロモート会社と契約しているのに対し、キトロフが契約したのは、ファイト・プロモーションズという全く無名のプロモート会社であるが、まずは、来月18日のプロデビュー戦でどの様なパフォーマンスを見せるのか大いに注目のはずだ。





キトロフVSハコビアン戦


キトロフVSアリムクァウリー戦

ファルカンと藤田とルール改正

ファルカンと藤田とルール改正


 世界選手権が開幕してから一週間以上が経過し、Youtubeでも、ちらほら動画がアップされ始めているが、今大会の最大の特徴は、ルール改正によりノーヘッドギアと10点法の採点法が採用された点であろう。
 しかし、個人的には、ノーヘッドギアは、バッティングやパンチによるカットを多発させる馬鹿げたルール改正であり、アマチュアボクシングの面白さを知らないファンを囲いこむ為だけの愚策に過ぎないと思っている。実際、ミドル級で優勝候補のエスキーバ・ファルカン(ブラジル)は、初戦で勝利したものの、早くも目じりの辺りをカットし、次戦では、その傷がもろ影響する形で精彩を欠き判定負けしている。また、日本の鈴木康弘(自衛隊体育学校)も、2ラウンドに生じたバッティングで不完全燃焼の判定負けを喫するなど、明らかにアマチュアボクシングのクオリティーを落とす結果に繋がっている。そもそも、インターバル抜きで最長でも36分間で勝負がつくプロボクシングとは異なり、アマチュアの場合、長い時には2週間から3週間かけて連戦する為、高いクオリティーの試合を構築するには、安全管理は不可欠であり、ノーヘッドギアのルールを採用するなど、正気の沙汰ではない。
 また、採点方法も、何故10点法を導入したのか、今一つ分からないが、今大会を見る限り、ジャッジの採点は、明らかに、選手の国際大会での成績、もしくは知名度に左右される傾向にある。
 例えば、長年アメリカのフライ級代表の座にあったラウシー・ウォーレンにかわり、代表の座を掴んだマリク・ジャクソンは、前回大会で準優勝したアンドリュー・セルビー(ウェールズ)を、1ラウンドから3ラウンドにわたって追いまくり、打ちまくり、ほぼ一方的に試合を支配したにもかかわらず、採点は0-3、しかも全員フルマーク採点の末の敗北という不可解極まりないものであった。そして、同じような事は、今年のアジア選手権で銅メダルを獲得した藤田健児(拓殖大学)と同大会でベスト8だったドンチャイ・タシ(タイ)との一戦でも垣間見えた。勝敗自体は、タシの勝利で何の問題もないのだが、両者の試合は、1ラウンドこそ藤田がやや優勢だったものの、2ラウンド以降は、タシが自慢のパワーボクシングで藤田をたじたじにさせ、藤田のガードをふっ飛ばすかのようなシーンを何度も創り出し、藤田の顔面、ボディーへと的確にパンチを当て、どう考えても採点が割れるような内容でなかったにもかかわらず、ジャッジが下した採点は2-1というおかしなものであった。その他にも、ビルズハン・ザキポフ(カザフスタン)VSカサンベイ・ドゥストフ(ウズベキスタン)戦など、例を挙げれば切りがない。
 勿論、ネームバリューに流されるような採点は、プロでも見られる現象だし、アマチュアでも昔から、その傾向はあるが、だったら、何のために10点法を採用したのかが分からない。
 何よりも非常に残念なのは、毎大会同様、今大会も興味深い対戦カードを提供し、面白い試合を連発しているにもかかわらず、ルール改正が、その節々で、その面白みに水を差す結果となっている点である。アマチュアボクシングが、ファン層の拡充をしなければならない段階にきているのは何となく理解できるが、この様なルール改正が、離脱率の高いにわかファン層の開拓に繋がっても、真の人気獲得に繋がらない事は日を見るより明らかなはずだ。


生放送の世界選手権

生放送の世界選手権


 前回の世界選手権では、AIBAが自身のyoutubeのアカウントで、全ての階級のベスト16以降の試合を生放送していたが、今年の世界選手権は、上半期に行われたヨーロッパ選手権とアジア選手権が完全「スルー」だった為、個人的には、AIBAのアカウントからの放送は、かなり早い段階からないものと諦めていたし、実際、今大会はYoutubeで放送されていない。
 ただ、放送されないと分かっていた分、あらかじめ、早い段階から、今回の開催地であるカザフスタンのテレビ局を幾つか検索していたこともあり、現在は、ほぼ何の支障もなく、しかも一回戦から観賞できている。そして、以下のアドレスが、そのアドレスである。
 
http://kazsporttv.kz/ru/online


 当初はAIBAのホームページからも観賞できるようになっていたのだが、試合開催日の13日にトーナメント表を改めて確認しようとしたところ、おそらくアクセス数が急増した為、サーバーがダウンしたのだろう、ホームページにすらアクセスができなかった。しかし、その後、復旧し、現在はAIBAのホームページからも観賞できるようになっているので、そちらからも試合を見る事はできる。
 今日は、既に昼の部が終了し、おそらく、日本時間午後10時ぐらいから夜の部が放送される。因みに、日本人選手は、ミドル級までの7選手が派遣され、2回戦途中の段階で4選手が既に敗退し、今日の夜の部から、日本代表の中で、おそらく一番期待されていると思われる藤田健児(拓殖大学=バンタム級)が出場する予定となっている。ただ、ベスト16までは、ふたつのリングで別々の試合が同時進行で行われる為、藤田の試合が放送されるかは分からないし、AIBAのホームページで流されている試合は、カザフスタンのテレビ局のストリームをそのまま引っ張ってきたものである為、放送内容は全く同じである。