カフェ「アルビレオ」の裏手には、

私が通うM大学の正門まで続く桜並木がある。
満開の頃は、勝手口の辺りが

花びらの吹き溜まりになってしまうので、

掃除が欠かせない。


バイト中、ヒマな時間を見つけて、

休憩とお花見がてらに、そこを掃くのが、

この時期の私のちょっとした楽しみだ。
はらはらと散る白い花びらは、

どれだけ掃いてもキリがないけれど、

いつまで見ていても見飽きない。

とりあえず一通り掃き終わると、

パンパン、と硬い生地で出来た

紺色のカフェ・エプロンの前を払う。


ポケットの端に羽を広げた白鳥のマークの刺繍が施された

この店のオリジナル・エプロンは、私のお気に入り。

大学に近いこのカフェで

バイトしようと思った理由のひとつだったりするんだ。


なんで白鳥のくちばしのところに

星がついてるのかわかんないけど、可愛いよねぇ。

て言ったら、幼なじみの真にはなぜか、

無言のまま思いっきり溜息をつかれた(なんでよぅ)


そのエプロンのポケットから、

私は1通のエアメイルを取り出した。


1週間前から何度も読み返した

薄い便箋を空にかざす。


桜の花の間から見える青空が、

細い綺麗な文字の間に薄らと透けて見えた。


「明日、かぁ・・・」


小さく呟いた瞬間、

開けていた勝手口の奥から、

マスターの声が響いた。


「麻衣ちゃーん!! 中、混んできたぞ。戻ってこーい!!」
「はいっ! すぐ戻りま~す!!」


私は大声で答えると、

慌てて便箋を畳んでポケットに突っ込み、

脇に抱えていた竹ぼうきを勝手口の横に立て掛けた。


手を消毒して中に戻ると、

さっきまでガラガラだった店内のテーブルは殆ど埋まり、

マスターと岩城くんが慌しく立ち動いている。


「おっせ~よ、野坂。これ3番。倒さない程度に早く持ってけよ」


私の顔を見るなり言って、

岩城くんがカウンターにケーキセットを二つ載せた。


「了解!!」


私は素早くお盆を手に取ると、

ケーキセットを載せ3番テーブルに運ぶ。


私の顔を見ると、制服姿の女子高生達は目交ぜして、

ちょっとだけガッカリしたような顔をした。


この時間に来る女性客は大抵、

岩城くん目当てのお客様なんだよね。


そりゃ岩城くんが運んであげた方がいいんだろうけど、

忙しい時はそうも言っていられない。


だって、マスターが自分以外で

お客様用にコーヒーを入れるのを許してるのは

岩城くんだけなんだもん。


パフェやケーキの盛り付けだって、

不器用な私が作るよりも、よっぽどキレイだ。
必然的に、私はお運びとか皿洗い専門になっちゃうんだな。

とほほ。


「岩城くん、人の顔見るたびに

『倒さない程度に』って言わないでよ。あれは1回だけでしょ」


「ケーキは1回だけど、アイス・コーヒーは2回。

パフェに至っては4回はやっただろ」


次のオーダーを取りに来た私が小声で文句を言うと、

岩城くんは、パフェ用のガラスの器に生クリームを盛り付けながら、

へらっと答えた。


口調は軽いけど、手付きはプロ級だ。


「アルビレオ」は小さな店なので、

コーヒーを入れる所やパフェを作っている所が

カウンター越しにお客様から見えるようになっている。


パフェを盛り付ける岩城くんが首を傾ける度に、

真っ黒でサラサラな前髪が揺れるのを、

テーブルから幾つもの熱い視線が見つめている。


でも、岩城くんは涼しい顔。
と言うより、見られ慣れてるんだと思う。

高校時代からそうだったもん。



陸上部で100Mの県大会記録保持者でもあった彼の周りは、

いつも沢山の女の子が取り巻いていた。


とはいうものの、部自体は弱小で、

入った当初から同学年に私以外の女子部員はいなかったし、

男子の方も、厳しい練習についていけずに辞める人が続出し、

同学年では真と岩城くんしか残らなかった。


そんなわけで同級生3人組の結束は強まり、

エスカレーター式の大学部に進んでからも、

男女を越えた仲間というか、友達として親しくしている。


と言えば聞こえはいいけど、

ようするに女の子として見られてないって事なんだと思う。
私的には、ちょっと、っていうか、かなり不満なんだけど……。


私は、カフェ・エプロンのポケットに忍ばせた手紙を

上からそっと押えた。


ゆきちゃん。
岩城くんは、ゆきちゃんのこと、まだ忘れてないよ……。



・・・To be continued.

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