何で彼女なんだろう。
側にいた時も、いられなくなってからも、
ずっと考えているけれどわからない。


もともと真面目に考え込むってのは
オレの性に合ってない。
無闇やたらとケリをつけなくたって、
なるようになるし、そのほうが気楽だ。
特に人の気持ちなんて、
ファミレスのメニュー選び並に
簡単に覆ったりするもんだろ。


オレは、新しいメニューは積極的に試したい方だし、
そうなると今日選んだヤツが
一番好きかどうかは断言出来ない。
むしろ一度断言しといて撤回する方が、
ずっと面倒だし、ザンコクだと思うわけで。


だから、人のセレクトにもいちいち干渉しない。
いつでも絶対変わらないなんて言うヤツは、
単に「いつもの」以上に好きなメニューが見当たらないか、
最初からメニューを見る気がないだけだ。


◆◆◆


「つまり、どうでもいいってことでしょ」


田浦美香は、いつものように
完璧にカールした睫毛を瞬かせながら
オレを睨んだ。



「どっちも好きとか、同じくらい好きとか言うのは、
どっちもどうでもいいって言ってるのと同じなのよ」



来たか。
オレは曖昧に微笑いながら首をすくめた。
そろそろヤバいかと思って、
メールも適当にして、
なるべく顔を合わさないでいたのが裏目に出たな。

最近は、それで自然消滅するパターンが多かったから、

すっかり油断していた。


今日も、田浦は取っていない講義だからと
安心してのこのこやってきたオレは、
待ち伏せしていた彼女に

講義が終わるなり有無を言わさず
三号館の裏手の非常階段まで引っ張ってこられたわけで。


幸い学食じゃないから、
水だのコーヒーだの
熱々のミートグラタンだのを
引っ掛けられる可能性はないものの、
この勢いだとビンタはアリかもな。

オレは素早く田浦の手元をチェックした。
爪が伸びていたら、結構痛い。



「こういうの、もうイヤなの」


「うん」


「別れたい」



オレは黙っていた。
こういう時、気のいいヤツほどぺらぺら喋って墓穴を掘るが、
どっちにしたって同じ答えなら何か言うほど泥沼だ



「何も言わないつもり?」


「最初に言ったから」



オレは神妙に言った。
田浦は怪訝そうに眉を寄せ掛けたが、
すぐに気づいて視線を伏せた。



「……そうだったわね。わかった」



田浦はそのまま立ち去りかけて、
階段の下で振り返った。



「雅之は、最初から私のことなんか、
好きじゃなかったのよね?」



あと一滴で零れるような

表面張力ギリギリの眼差しで田浦は言う。


こういう時の女って、どっちを望んでいるんだろう。

夢を見たままでいたいのか、

感傷に浸る隙もなく打ち砕かれたいのか。



「そう言うことにしたいなら、それでもいいよ」



どっちも好みじゃないオレは、

こんな風に言うしかない。


息を呑んだ田浦は、

それでも涙が落ちる寸前に顔を伏せて走り去った。

さすがの気の強さだ。

プライドの高い女は、引き際がいいから有難い。


オレは階段の真ん中あたりに座り込むと、
ジーンズの尻ポケットから
ラッキーストライク・メンソール・ライトと

ジッポを引っ張り出して1本口にくわえた。


とりあえず叩かれなくてよかった。
もともと物分りの悪いコじゃなかったしな。


だから、最後に食い下がってくるとは、

正直ちょっと意外だった。

『私とあのコとどっちが好きなの』みたいな台詞を吐くのは、

屈辱だと思うタイプだと思っていたから。


猫みたいに細くて柔らかい髪が好きだった。
いつもキレイにカールされた睫毛。
整えられた華奢な指先。
食べ終わったケーキのホイルをきちんと畳むクセ。
抱いたとき、少し掠れる声も。


好きなところなら、確かにあった。
いくら告られても、
まったく好きでもない女と付き合えるほど、
ヒマでも物好きでもない。


でも、田浦が欲しかったのは、
たぶん違う言葉なわけで。


ウソでそれを言えるほど優しくもなれない代わりに、
聞きたくないようなホントのことを言うのは、
もっとオレの本意じゃない。
どっちが酷いかっていったら、同じことかもしれないけど。


・・・To be continued.

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※登場人物紹介(イラスト有)2枚UPしました。

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