遡ること4年前。
2020年、7月某日。

わたしは大きなスーツケースを抱え、
人もまばらな電車にひとり、揺られていました。



20歳になった途端にコロナ禍が始まり、
出演予定だった舞台は軒並み中止に。

一日一日をやり過ごすような生活に嫌気がさして、



──北海道の牧場で、住み込みで働くことにしたのです。




「北海道の牧場で働いてきます。
2ヶ月後に帰ります。」


おそらく人生で二度と口にしないであろう言葉を残し、
成田空港へと向かう電車に揺られていた。



車窓から見える景色は、どんどん緑が増えていって
太陽に照らされ青々と輝く田んぼと対照的に、蛍光灯の車内はなんだか薄暗く感じました。






「上京するって、こういう気持ちなのかな」




ふと、そんなことを思っていました。


慣れ親しんだ場所を離れて、
知っている人が一人もいない、行ったことのない地へ向かう。

新しいことを始める期待と高揚感、不安と緊張で胸が張り裂けそうで
なんだか分からないけど、ずっとちょっと泣きそうだった。





あの日、わたしが車窓から眺めていた景色は
美穂が訪れ、涙した場所なんだなぁ。





あやめ十八番 第十六回公演
『雑種 小夜の月』
2024.8.10-18  @座・高円寺1

全11公演、終演いたしました!✨



台風が来たり、
他にも色々、本当にいろんなことがありながらも
初日から千穐楽まで、全員で上演できて本当に良かった。



劇場でご観劇くださった皆さま、
配信をご覧くださった皆さま、
様々な場所から気にかけてくださった皆さま、
どうもありがとうございました!🐈🐾


お稽古初日📸




とっっても楽しかったです!
ずーーーーっと!!!


笑いの絶えない穏やかな座組でした。

家族のお話ということもあってか
なんだか親戚みたいな安心感、一体感があって
あたたかくて優しくて、とても居心地が良かったです。
お互いへのリスペクトと愛に溢れていました。





大きなドラマが起こるわけではないけれど、
なんだか涙が滲んでしまう。

お稽古を見ていてずっと泣きそうだったし、
お稽古を見ているみんなの表情にもまた、泣きそうになっていました。



知らないはずなのに、知っている。

田舎の記憶が呼び起こされる作品だなぁと思っていましたが


この作品と、ここに出てくる人たちは

もうすっかり、確かにそこにあった“田舎の記憶”になっています。




今日も日常は続いていて、

またみんなに会える気がする。





↓増えていく人たち🥰








今作は、あやめ十八番唯一のシリーズもの
「お団子屋さんシリーズ」第3作目🍡


私は2作目の『雑種 花月夜』が大好きで
高校生の頃から、配信で何度も何度も観ています。
ビデオだったらもう擦り切れてるだろうなってくらい!!📼✨


『雑種 花月夜』舞台写真




お稽古初日。
ずっと観ていた小堀屋の人達がここにいて、
更にはその世界に私もいて、一緒に喋っているということに
あまりに感動して、こっそり泣きそうになっていました。


まさか私が、小堀屋に…!
大名曲 ♪可愛い商い を歌う日がくるなんて!!


演劇をしていて、夢があるなぁ!と幸せを噛み締める瞬間が時折訪れるのですが、
今作に出演できたこと、まさに「夢があるなぁ!」なご褒美みたいな時間でした。




今回いただいた美穂という役は、あまりにも私への当て書きで
公私共にかなりの時間を一緒に過ごしてきた堀越さんだからこそ書いてくれた、
もう本当に、そのまんま私みたいな女の子でした。


美穂へ向けられた言葉が、私自身にも向けられているようで
堀越さんからの贈り物のような役だなぁと思っています。



いつもは役と自分との距離を縮めていくような気がするけれど、
今回は、役と自分との違いを見つけていくことで
役が作られていく感覚がありました。




美穂のときは片足重心をよくしていたり、

衣裳を選ぶときも
わたし自身はスキニーをよく履くけれど
美穂は絶対ワイドパンツだなって思ったり。



ここを変えよう!と決めていくのではなく、
自然と出てきたものから、あ〜ここは私とは違うんだなぁと気付かされる感じ。
今までにない演じ方、作り方だったかもしれません。






美穂はずっとケラケラと楽しそうに笑っていて、

私自身もよく笑っている気がしますが、
日常のふとした時に、あ〜美穂に引っ張られてるな〜って思う瞬間があったりして面白かったです🤭
わ、いまここで笑いながら喋るのはめちゃくちゃ美穂だ!みたいな。




小堀屋のモデルとなったのは、
堀越さんのご実家のお団子屋さんで

もう何年も、年末年始には私も働きに行っていたんです!
泊まり込みで、3週間くらい。笑



美穂とまったく同じく、
朝、出勤したら掃除をして縁台を出して。
開店したらお団子の注文を受けて、お会計をするポジションを担っていました!


ご注文を受けてから、お団子が出来上がるまで
「初めてですか?」「今日はわりあい空いてたでしょう?」なぁんて、
お客さんとお話しして。


2023年のお正月、お友達が来てくれたとき📸



お姉さんの接客素晴らしいね!頑張ってね!と、お客さんから言っていただくことも多くて
団子屋の才能あるよ!と堀越さんのお墨付き✨笑




今作、日替わりゲストさんがご出演くださり
参拝客として、お団子を買いにきてくださったのですが

あのシーンはもう、
ただただお団子屋さんで働いていました。笑


ゲストの皆さん、それぞれご用意くださったお話がとっても面白くて、
アドリブゆえの程よい緊張感、ドライブ感も楽しかったです✨✨

古いフィルムを現像に出したら

小夜のモデルとなった猫の写真が出てきました🐈








美穂を語る上で外せないのは、やっぱり篠笛🪈


かいてぃ(池田海人さん)と、チーム篠笛!……篠笛?



作中「私、フルートやってたんで」という台詞がありましたが
実際に小学生の頃、吹奏楽部でフルートをやっていたんです!
(とはいえたったの2年間、そこからブランク14年なのですが😂)





「篠笛やフルートなど、
笛の経験者はいらっしゃいますか?」

と座組全体へ募集がかかり、
お祭りのシーンがあることはひと足先に伺っていたので

(立候補したら、篠笛やることになるやつだ…)

と察して震えながらも、
やってみたい…!という好奇心もあり、手を挙げたのでした。




フルートとの違いに、最初は苦戦しまくっていましたが、
動画や書籍で勉強を重ね、とにかく練習!練習!練習!!!!


稽古初日までに、どうにかこうにかスタート地点に立ち
そこから更に練習を重ねて、なんとか形にしていきました。

 

 



【篠笛ドキュメンタリー】と称して、
まったく音さえ出なかった練習初日から、お稽古初期くらいまでの
自主練映像をまとめた動画をつくったので
ぜひぜひご覧くださいませ🌱

 



いや〜〜〜!難しかった!!!😂

でもそれ以上に、本当に楽しかったです!



みんなの楽しそうな顔を見ながら笛を吹くのが、

極上のしあわせ時間でした☺️





実際の下座連による演奏を何度も聴いては、
こんなに速く吹けないよ……と怯えていたのですが
本番では、むしろそれより速いテンポで演奏できるようになっていました!👍


本川岸(ほんがし)下座連



全員、和楽器初挑戦でしたが
みんなで褒め合い、励まし合いながら
和気藹々と頑張りました✨




篠笛を吹くことになったお陰で、
楽隊の皆さんとお芝居出来たのが本当に嬉しくて

楽隊エリアに足を踏み入れ、
初めて一緒に演奏させてもらったときはなんだかドキドキしました。



そしてね、楽隊の皆さんって本当にプロフェッショナルなのです…!
打ち合わせで飛び交うワードが1ミリも理解できない、、、

お芝居がうますぎる音楽家であり、
音楽に精通しすぎている俳優という、
スーパープロフェッショナル集団です👏🏻

改めてリスペクト!!!

 



篠笛もお囃子も、とっても楽しくて

公演が終わってからというもの、
各地のお囃子を聴きまくり、調べまくり、
いま、信じられないくらいお囃子に詳しくなりつつあります🫡!笑
夏休みの自由研究が出来ちゃうくらい!



詳しくなった結果、
佐原囃子の篠笛って、とにかくめちゃくちゃ面白い!!という結論に辿り着きました✨✨
今作で篠笛にチャレンジさせてもらったこと、改めて感謝しています。
フルートやっててよかったなぁ!!!笑


下座連浴衣には、あやめ柄のかんざしを挿していました!



せっかくの興味をここで終わらせてしまうのも惜しいので、
なにかしらの形で続けて行けたらなぁと企んでいます!
この熱が冷めやらぬうちに🔥








自由研究といえば…

 

劇団員の大森茉莉子さんの娘さん、
佐藤つむぎちゃんの自由研究、ご覧になりましたか?📝✨



お家でもたくさんお稽古して、自分で演技プランを考えて堂々とお芝居する7歳の女優さんに
どれだけ沢山のことを教えてもらったことだろう…。


つむたんの初舞台をご一緒できたこと、
とても嬉しく光栄に思います。



この経験を、自由研究として
まとめ上げたのも本当に素晴らしい👏🏻
(母もりこさん、すごすぎるよ…!!)




わたしは今回、「いしょうさん⭐️」を担当させていただいたのですが

つむたんの衣裳は3着とも、
お母さんの全面協力&プロデュースによるものです!✨


「タイみたいのふく」
あまりにも可愛すぎたな、、天才だった、、

タイみたいの子、バイオリンを弾く!の巻🎻





衣裳を担当、と言いつつも
私服衣裳はほとんど皆さんのセルフプロデュースの賜物で
たくさんご協力いただきました🙏✨


アシスタントなどではなく
「衣裳」として舞台公演に携わるのは初めてで、至らない点も多々ありましたが、
それでも今回、任せていただけたことはとても嬉しく
有難い経験となりました。




これを、



こうして、



こう!!!✨





稽古場でもチマチマ作業をしていたら、いろんな方が声を掛けてくれて、
たくさん手伝ってくださいました🥺💗

 



下座連女子、ヒナコさんとの揃いの浴衣は

足で見つけた奇跡の2枚!!!✨




木札の江戸文字は手書きしたのですが、

それがあまりにも楽しくて…



休演日に作った【そば粉のスコーン】

手書きポップは(無駄に)フォントにこだわっちゃった✍️




 

 うめさん(梅澤裕介さん)が、全員のことをドット絵で描いてくださったのですが

衣裳の柄まで細かく再現してくださっていて、

とにかく感激しました…!✨




「入座祝いです」と、小夜の月スペシャルな背景にしてくださった美穂🌙







美穂は神田生まれのシティーガールで、
お祭り好きということで

お稽古期間中、何度か神田明神を訪れました⛩️




夜はまた雰囲気が変わって、そちらもまた良いのです。





風が吹くたび、風鈴の音がやわらかく響いていて
しみじみと夏を感じました🎐


冷やし甘酒をしっかり堪能🤤




神田明神から大通りに出て、
甘酒屋さんの反対側、左手へ曲がって
坂をすこし下っていくとココスがあるんです。

高校時代、美穂はそこでバイトしてました!
(と勝手に決めた👍)





なるべく細い路地を選んで、ぐるぐると歩いた時間が
私のなかでほんの少しだけ、大切で。


なにかが大きく変わるわけではきっとないんだけど、

「想像」を「記憶」にするこの時間が、
私にとっては特別で、楽しいのです。






お稽古期間に千葉を訪れることは叶いませんでしたが、

堀越さん達が成田に住んでいた頃、
遊びに行く度に、車でいろんな場所に連れて行っていただきました!


↑公演期間中、私の待ち受け画像はこれ!🌾




2年前には、佐原の大祭にも!🏮✨
凄かったなぁ〜〜








ブログ冒頭に書いた、
北海道へ向かう道中と、田舎の牧場で暮らした日々も含めて、


いろんな記憶や経験が、
すべて今作に、この役に、繋がっていたなぁと思います。








美穂のことは、劇中でしっかり描かれる訳ではないから
私の中での細かい部分は、こっそり留めておこうかなと思うのですが、


返田という土地がいたく気に入り、
ここに住もうって、ひょいっと引っ越してきた彼女のこと
なんだかすごーく分かるんです。





突拍子もない行動力と決断力。


あの日、返田に行ってよかったね。
いい人達と出会えてよかったね。




家族という強い結びつきのなかに
他所からきた美穂をすんなり迎えてくれて、
そこでのびのびと自然体でいられて、
やってみたい事を見つけて、やれて。





よかったねー!!!!!
美穂ちゃん!!!








あぁ。
これを書きながらいま、泣きそうです!

だって全部、
わたし自身に言ってるみたいなんだもん。







一世一代の直談判を経て、
あやめ十八番の劇団員になりました。







2017年、高校3年生の夏に【吉祥寺シアター演劇部】として初舞台を踏んだ私は
人生ではじめてお世話になった演出家が、堀越さんでした。


その2年後、2019年『しだれ咲き サマーストーム』ではじめてあやめ十八番に出演し、


2020年『江戸系 宵蛍』
2021年『音楽劇 百夜車』
2022年『空蝉』
2023年『六英花 朽葉』

と出演を重ね、



昨年、『六英花 朽葉』の終演後ブログの最後には、こんなことを書いていました。

✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼

さて。
私はいま、変革の時を迎えようとしています。


(中略)


変えること、変わることはとても怖くて、

緊張と不安で、毎日心臓がバクバクしているけれど、
わたし、この感じ知ってるんですよね。

高校生のとき、いろんなものと闘いながら
自分の進む道を自分で決めたあの頃とおんなじ。




とっても怖いけれど、
とっても楽しみで、ワクワクしてる。



第何章目かの中野亜美を、始めるぞと。
いま、そんな気持ちでいます。

✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼


「あやめ十八番に出たい」が
「あやめ十八番に入りたい」に変わったのはもっとずっと前だったけれど、

いまここで言えなかったら、私は一生言えないだろうなと
この公演が終わったら、いよいよ言うぞと腹を括った2023年夏。




劇団員写真を撮る三人を見つめながら
来年は私もここにいられるのかなと、
こっそり思っていたのでした。
(右端にちょっぴり見切れているのが私です。笑)





2024年夏。


ここに、いました。








急に何かが大きく変わるわけではないのかもしれない。

加入のご報告以降、いろんなタイミングで「劇団員になったんだなぁ」を感じながらも
ずっと、実感が湧くような湧かないような不思議な感覚で
劇団員になる前からかなり深く関わらせてもらっていたし、そういうものなのかなぁと思っていたのですが。





8月14日、入座披露の日。





めずらしく少し緊張していた私は

開演前、いつもより早く舞台裏に来てしまい

やることもなく椅子に腰掛け、開幕を待っていました。



そんななか、スッと隣に堀越さんが座って

特に言葉を交わすわけでもなく、

きっと本当に深い意味など何にもなく、ただしばらく並んで座っていただけなのですが



なーーーんか、泣きそうになっちゃったんです。





あぁ、私はこれから一生

ここで一緒に演劇が出来るんだなぁと思って。


胸がいっぱい、ってこういうことなんだと知った。








入座披露では、
たくさんのお客様に見守っていただきながら
いろんなお話をさせていただき、
そんな私の言葉を受け止めてくださる劇団員。

あたたかい拍手をいただいて舞台裏に戻ると、
座組の皆さんからも、たくさんのおめでとうをいただきました。



あぁ、入座したんだなぁをとても実感して
皆さんによって、特別な日にしてもらったなぁと思います。






私はあやめ十八番が大好きで、
あやめ十八番の4人のことを、心の底から尊敬しています。

堀越涼さん。
大森茉莉子さん。
金子侑加さん。
吉田能さん。

4人それぞれが替えの利かない大きな役割を担っている、
「4人のあやめ十八番」はとても格好良くて、
ずっとずっと憧れていました。







私があやめ十八番に入座したことは、
あやめ十八番にとって、決して小さくはない変化になってしまったと思うのです。






あやめ十八番のご贔屓の皆さまに認めていただけるように。

あやめ十八番を愛する“あやメンバー”の皆さまに納得していただけるように。



あやめ十八番の4人に、入ってくれて良かったと
そう思っていただけるように。






ここから、もっともっと頑張らねばと
身の引き締まる思いでおります。








いま、かつての私には想像さえできなかったところに立っていて、


だから、
これから先も、目の前のやるべき事ややりたい事に誠実に向き合い続け、
5年先、10年先の未来には、いまの私には想像できないところに立っていたい。
ずっとずっと遠くまで、行きたいです。






ぼんやりとした話になってしまいますが、

「目標」とすることさえ出来なかったような大きな夢が
まだまだ道のりが遠いことは変わらないけれど、
モヤがかかっていて見えなかったその「道のり」がほんの少しずつ少しずつ見えてきて、
遠くても道は繋がっているんだ、行けないわけじゃないはずなんだと思えるようになったんです。



この「大きな夢」ってのも、ひとつじゃないし
わたしの中でもまだまだ漠然としているのですが。







まだまだ未熟で、ちっぽけだけど
私が頑張ることが、ほんの少しでもあやめ十八番のために繋がるかもしれない。


ひとりじゃないって、すごいんだなぁ。
ますます精を出して頑張れそうです。




「頑張んなくっちゃ、しょうねぇよ」って
おんちゃんも言ってくれてる気がする。





新しい章は始まったばかり。

より一層、精進してまいりますので
【あやめ十八番の中野亜美】を、
どうぞよろしくお願いいたします。