▽プロローグ
2022年8月から、しばらくほぼ無償で友人のお子さんの家庭教師を引き受けていました。
Yさんは中学2年生の女の子で、数学がかなり苦手。
どれくらい苦手かというと、直近の数学の定期テストが3点だったという逸話の持ち主です。
初回授業時、まずはどのくらい出来ないのかを確かめるべく中1の最初の単元(正負の数)から中2の連立方程式までの全単元の基本問題を作って持っていきました。
しかし、1問目(-21+7=?)から全く手が動きません。
小学校の単元からの復習が必要だと判断し(ここまでは想定の範囲内)、分数の計算から教えていくのですが、どうにも飲み込みが悪い。
「この2つの数の公倍数求められる?」「無理です。何ですかそれ。」「三角形の内角の和は?」「知りません」「素因数分解できる?」「逆にできると思いますか?」とまぁこんな具合にどんどん遡っていくと、どうやら九九からちゃんと習得できていない状態だと判明しました。
また、数学だけではなく、英語もbe動詞さえ知らない状態でしたので、同時に指導して行くことになりました。
要するに、勉強をこれまでにほとんどしてきたことがない状態でした。
現状把握が済んだ時点で、「むしろこの状態でよく3点取れたね、諦めなくてえらい!」と本気で感心するほどのものでした。
▽勉強という経験値
「授業を聞く」とか「宿題をやる」とか、なんとなく、勉強が得意ではない子でも不完全ながらも少しはやっているのが普通ではないかなと思います。
しかし、それらのことをほとんど意識することなく、義務教育を終える子が一定数います。
なんとなく流していても授業は進んでいきますから、誰にも指摘されることなく進んできてしまうことも可能なのです。
それは、才能の差ではなく、ほんの少しの意識の差だったのかもしれません。
しかし、それが蓄積してしまうと自力での回収がほぼ不可能な大きな差となって表れてしまいます。
公立小学校や中学校だと、こういうお子さんが周りにいらっしゃるケースは多いと思います。
現行教育の問題点とは、「一度落ちこぼれてしまった子ども」を回収できずに理解できるはずのないカリキュラムで宿題を強制し時間を浪費させてしまう点にあるというのが、個人的な見解です。
▽地頭向上プロジェクト
計算ができなければ数学で点数を取るのは絶望的ですから、まずは九九を覚えるところからスタートしました。
しかし、ここまで数字を自分であれこれいじってみたこともないYさんは当然要領よく飲み込むことができません。
とにかく数字に慣れさせる訓練が必要だと考え、とにかく毎回計算計算。
九九を忘れない様に表を作って毎回確認しつつ、小学校の範囲の中で中学校の勉強に必須と思われる単元を履修する日々が続きました。
1週間の中で3日ほどに分けて、5分くらいで終わる宿題を出していたのですが、結局前日にやってしまうことが多かったようです。
一応やってこようという姿勢があるだけでもまだ見込みはあるかな、とは思うのですが、正直毎日一緒にやりさえすれば1週間とかからず習得させる自信がある単元も多いだけに1週間後の確認作業はかなりのストレスでした。
毎回ほとんど忘れてくるので(-_-;)
ご家庭での伴走は期待できない状態だったので、キャパシティオーバーにならないようにギリギリの負荷をかけていくことを意識して指導を進めていきました。
英語の方も、「be動詞って何ですか?」から始まり、bookのスペルがわからないとか、とにかくほぼ0の状態。
実は英語の指導は半年ほど中学生のクラスを持った経験があるのですが、そんなのは正直素人に毛も生えていない程度のものなので、まずは市販のテキストで良いテキストを探すところから始めました。
いくつか試してみて、英単語は「ディズニー単語帳」が単純暗記に向いていて初学者には勉強しやすいようでした。
英単語の最初の数百個は先の展開とは無関係に、とにかく頭に入れるのが大切かなと。
知識がないと思考が始まらないですからね。
「くわしい英語」で英文法を、教科書で英文読解を、ディズニー単語帳で語彙力を鍛えていく方針で落ち着きました。
▽暇な講師が本気で1人の生徒を指導したらこうなる
暇な講師の本気を見せつけるべく、数学・英語はショート動画を撮って要点を解説、さらに数学は要点をまとめたノート・英語は全訳に加えて全単語熟語解説付きノートを作成して持たせることにしました。
で、最終的に完成したのがこのスタイル。
動画・ノートをEvernoteにはっつけて共有。やっていることは今と変わらないですね 笑
作成したノートはプレゼントして、アナログでもデジタルでも見直せるようにしました。
プリントを見直すYさんをみた学校の先生から「家庭教師の先生仕事しすぎでは」とありがたいお言葉をいただいたのでした。
▽定期テストの経過
1学期期末→2学期中間→期末→3学期(学年末テスト)
数学
3点→17点→55点→77点
英語
11点→17点→32点→54点
結局、数学は7ヶ月で学年平均を超えました。
九九から始めたことを考えると割と短期間で伸びてくれたかなと思います。
英語は中学2年生の間に平均を超えることはできませんでした。
全力は尽くしましたが、これは私の経験不足による指導力不足も影響していると思われます。
▽公立高校を目指す?
中学3年生を迎えてからご家庭と高校受験について話し合い、「公立高校に入れてほしい」と言われました。
ご家庭としては当然のご要望なのですが、公立高校を目指すとなると英語と数学以外の教科も指導しなくてはなりません。
九九もできず、be動詞も分からなかった子ですから、おそらく他の教科も同じような状況であると推測される状況です。
また、毎週忘れた所を確認して再び教え直しゆっくり定着させていく週1の勉強で伸ばせるのはこの辺が限界かな・・と考えていました。
単純に考えても中学3年間の勉強を1年で終わらせるには普通の子の3倍は勉強しないといけないわけです。
ここから勉強量を増やさざるをえないとなると、優先すべき次なる課題は勉強の日常習慣化です。
彼女にある程度自走をしてもらうためには「授業を聞いて理解できるようになること」や「自分でテキストを読めるようになること」など、様々な課題をクリアしてもらわなければなりませんが、ここまでおんぶに抱っこでなんとか点数が取れるようになってきただけで自走能力もまだほぼないと考えていました。
この頃には質問教室を始めていたのですが、暇だったため「質問教室と合わせて週4回勉強するのであれば可能性はある」とお話ししました。
ここでYさんが拒否反応を起こしました。
▽勉強習慣のない子供が勉強を好きになるか
私は勉強はある程度までは「やらせるもの」だと考えています。
普通は子供は遊びたがるもので、勉学に励む利点はある程度できるようにならなければ理解できない部分も多いからです。
このままでも3年くらいくれたら中の上くらいまで伸ばす自信はありましたが、受験勉強という限られた時間の中では、「自然に伸びる分だけ」と悠長なことも言っていられません。
何より、最終的に自走できるようにならない指導では意味がありません。
学習習慣には慣れも重要で、この様子では勉強量が増えるたびに不満を抱えるのは目に見えていたので、最初から勉強時間は増やして慣らした方が良いと私は考えました。
しかし、これにはご家庭にもある程度の強制力を発揮してもらうことが不可欠です。
少なくとも、学習習慣が今まで全くなかったご家庭から「日常的に勉強するのが当たり前」という状況が自然に生まれるとは少々考えにくいでしょう。
その点についてお母様にお話しした所、「家族で考え直そうと思います」ということで、指導はここで終了となりました。