▽4日間の短期指導
Tくんの指導が始まったのは8月の終わり頃でした。
とりあえず4日間だけ、「天体」と「電流」の単元の底上げをしてほしいというご依頼をいただき、理科ノートを送付させていただいてそれを元に基礎のチェックをかけました。
指導をしてみると、ご依頼の通りこの2単元には基礎体系の習得に大きな問題があったことがわかったのですが、どこに誤解があってどのように理解し直すべきかなどを指導したところ、あっという間に習得してしまいました。
4日目の指導終了時には「天体はまだまだだけど、電流は完璧」と本人もこれまでにない手応えを感じてくれたようです。
ここでの指導を気に入っていただいて、そのまま定期指導の流れとなりました。
▽定期指導・前半戦
定期指導になってからまず最初に着手したのが理科ノートを使った基礎の甘いところの総チェックでした。
天体・電気以外にも基礎が曖昧なところが必ずあると踏んだためです。
苦手という単元を優先して基礎の穴をチェックしていくと、最難関を目指すだけあって思っていたよりできる単元も多かったものの、気象など暗記単元がかなり苦手だということがわかりました。
また、受け答えの際にちょっと理解度をふわっとさせるところがあるお子さんだったのでそこに危機感を持ってはいました。
一応、質問を変えるなどして本当に理解できているのか確かめてみるのですが、賢いので答えられることも多いものの確信が持てないような状況が続きました。
大量の知識をチェックする上では本人の自問自答による弱点の洗い出しが大切なのですが、私が気付いた穴だけ埋める・・という消極的な形になってしまったように思います。
「理解」は得意だが「暗記」は苦手、というのは最難関でも理系のお子さんにはよく見られる傾向です。
ただ、模試のたびに抜けはしっかりと補修する作業は続けていました。
▽関東から灘中学を受験するか問題
ご家庭(特にお父様)の希望で、灘中学の受験を念頭に対策をすることになりました。
最初に理科を解いたのですが、基礎の穴もあり芳しくありません。
ただ、こちらは演習の繰り返しによって水準まで達することは不可能ではなさそうでした。
しかし、次に算数を解いたところで心がボキッと折れてしまったようです。
理科の傾向の違いだけでなく、この算数に対応できるかが灘中学合格の鍵になります。
関東と関西では出題傾向も異なるため、時期なども考えて、「合格する可能性を上げることはできるが、多くのリソースをそちらに割かねばならず、結果関東の本命校の合格率を下げる」と話し合い、灘中チャレンジは半月ほどで中断となりました。
関東から灘中学校などの受験を考える場合、早めに保護者の方だけでも過去問などを見て対策しておいた方が良いと感じます。
▽定期指導・後半戦
自塾の課題やスケジュールでいっぱいいっぱいらしく、10月ごろから反抗期が表面化してきました。
聞くところによるとお母様にはかなりあたりが強くなっていたようです。
この頃はまだ私に対しては体裁を整える余裕があったようですが、後半は過去問が解けていなくて授業にスムーズに入らない時があったりもしました。
マンスリーテスト(SAPIX)ではまだまだ基礎と問題の読み間違いもかなり多い状況でした。
これらを地道に埋めていく作業は、すぐに成果が反映されない分、本人も楽しくないところはあったのだと思います。
基礎の総復習が終わってからも、「知識のチェックを受けるように」と毎回のように口を酸っぱくしていっていたのですが、どうにも歯切れが悪く、何だかんだ質問教室に来ない日が続きました。
本人の自覚を促すためにも厳しく指導する場面もあったのですが、効果はなく、演習の中で基礎知識の穴がボロボロ見つかる状況が続きました。
11月のマンスリーでようやく9月以降の模試で初めて理科の偏差値を60台に乗せることができ、基礎の底上げの効果を実感してもらえたように思いますが、それでも「じゃあ基礎をしっかりやろう」とはなってくれませんでした。
ただ、お母様が基礎の底上げの効果を実感してくださり、どうにかこうにかやらせようと奮闘する日々が続きました。
12月に入ると西大和・渋幕などの過去問に着手し始めました。
出来にムラがかなりあり、苦手な単元(主に暗記漏れ)があると点数が下がってしまっていました。
年末からサピックス教材で知識のチェックを一緒にかけていくようになりましたが、知識の穴を抱えたまま、1月前半の西大和・愛光・栄東の受験を迎えました。
一方で演習の面では難問はバリバリ解くことができていました。
特に最初ちんぷんかんぷんだった天体は、8月終わりに基礎をしっかり履修し直していたことで演習の質が高くなり、最難関レベルの難問にもきちんと対処できるレベルまで伸びていました。
▽苦手な暗記をどう克服するか問題
私は基本的に「効果を実感すれば本人のやる気につながる」という方針の下で指導しています。
時間の限られた中学受験では、本人の自主性が開花するのを待っていられないという事情もあります。
「方法論を叩き込む→模試などの成績が上がる→本人のやる気につながる」という流れを常に意識しています。
しかし、「暗記という作業そのものを苦痛に感じる」場合、効果を実感しても後回しにしてしまってやらない、という状況に陥ることがよくあります。
特に6年生後半は忙しく、いくら「基本が最優先」と徹底指導しても、「やることが多くて」という言い訳とともに基礎が蔑ろにされてしまうのです。
理系で難問をバリバリ解きこなしていくお子さんに多い傾向です。
基本的には毎回きちんと暗記をして溜めさせないようにしないといけないわけですが、溜まってしまったらわずかでもハードルを下げる工夫(量を区切る、テキストを開いて用意しておく、など)をしつつ、徹底的に付き合ってあげるしかありません。
▽入試シーズン
前哨戦の結果は
西大和学園(東京受験) 不合格
愛光 合格
西大和に関しては、少し自信をなくしてしまっていたようです。
私から見て受かる可能性は十分あったものの安牌ではないという状況だったので仕方がありません(東京受験は関西受験より偏差値が4高い)。
知識のムラを潰しておくことで2月の入試では安定して取れるようになると話し合いました。
また、この頃から本人のストレスケアを優先して厳しい指摘や学習の改善を促す指導はやめる方針に切り替えました。
1月中盤以降も引き続き塾の知識教材を一緒にチェックは続けていたのですが、徐々に知識の伸びを感じるようになってきました。
ギリギリだったので見えない穴はまだまだあり、確信こそ持てなかったものの「最難関校に合格する子供の仕上がりに近いもの」をはっきりと感じました。
1/24 渋谷教育学園幕張 合格
ここで渋幕を取れたことが、本人のプレッシャーを和らげてくれたようです。
渋幕合格後も1/31まで基礎チェックと過去問演習の2本柱で指導は続けていきました。
麻布 合格
渋渋 合格
筑駒 不合格
2/3 お母様から満面の笑みで掲示板に写るTくんの写真と麻布中学合格のご報告が。
お電話にて「先生のおかげです」と明るい声で報告してくれました。
最後にチャレンジした筑駒は残念でしたが、本当に素晴らしい結果を残してくれました。
▽合格体験記