手を振った瞬間から切なくって、
背中が階段の影に消えて見えなくなった瞬間から
会いたくなった。
人を好きになる、猛烈に。
それはきっとこういう事だし、
こういう感情を1人で抱え込むことなんだと思う
先生はよく息子くんの写真を見せてくれる
ほっぺがぷくぷくしていて
くちびるは赤くてぷるぷるしてる。
無垢でとっても可愛らしい。
でもいつもなんだか虚しくなってしまって、
泣きたくなるのを堪えながら「わぁ!可愛い!」
って言ってる。
そしたら先生も得意げに、嬉しそうに笑う。
それを見たら私も幸せになるの。
お嫁さんと息子さんは先生の一番の宝物なんだろうから、私も邪魔しないし否定しない。
先生を幸せにしてくれるものはこの世に沢山あった方がいいもん。
2人だけで作った秘密の部屋で、
はんだ付けしてる先生の横顔を見てた。
瞳の中にオレンジ色の光が写って、瞬きするたびてらてらして、揺れて、綺麗で見惚れた。
そしたら先生は私の視線に気づいて、私を数秒見つめて、私は目を逸らせなくて、「大好きです」って思いながら見つめ返して
先生はいつもみたいに「お前は可愛いなぁ」って言いながら犬にするみたいに私の頭を撫でた。
私は先生が好きだから、犬でもいい。犬人間。
先生と話した十七歳、
先生と聴いた駆け抜けて性春、
先生の手が頭に触れた瞬間、流れ出したBABYBABY
全部忘れられない。
BABYBABYってこんなにいい曲だったっけって思って、泣きたい時にはBABYBABYを聴くようになった。
時々声を押し殺して泣き叫ぶ夜が無いと、重くて耐えきれないから。
そういう夜も必要なの。
思い出が積もっていって、抱えきれないものも増えて、それでも積もり続けて。
こんなに尊い感情はそうそう抱けるものじゃないなと思う。
恋は、幸せな分とっても痛い。
でも痛みだろうがなんだろうが、好きな人がくれるものなら何でも嬉しい。
嬉しいんだよほんとに。
ばいばいする時、
明日会えないことが寂しくて、
寂しくて寂しくてたまらなくて
咄嗟に「握手して下さい」って強請った。
先生はいっぱいいっぱい、長いことぎゅうぎゅう手を握ってくれた。
わたしの、精一杯のスキンシップ。
あったかかった。
でもばいばいしたら、その温もりも直ぐに冷めた。
もっと寂しくて涙が出た。
あの手を握り続ける権利なんて、私にはないのだから。
下駄箱前に桜が咲いてて、虚しかった。
朝見たさくらはもっと鮮やかで美しかったのに。