この先二度とくちにしない。
アキノにとってはこれが自分への罰。罪になりかけた自分自身への行いに向けての。ついでに、これが罪をつくりかけたその人への仕打ちにもなってしまうと、知っていたけど。
くちをつぐんだ冬彦はもうアキノから眼をそらしていた。だけど本当はそんなことしたくないって、その躰と視線とのちぐはぐな角度がいっていた。この場合悪者は僕。そうでなくてはいけない。
ねえ、知ってる?
きみは僕のこと知ってる?
うらんでなんかいはしない。すべてはこうあるべきことで、はじめから決まっていた。そうはじめから。最後まで。きみはきみとして最初から生きて、僕は僕として最後まで生きる。最後のその日まで。昨日までそうだったように、明日からもそうあるべきように。
そうでなくてはならないように。
いや、僕みずからがそう望むように。
ふたりのあいだを隔てるものは、ほんとうのところ空気しかない。だけどわかっているだろう?その空気そのものが何よりも高い壁であり塔だってこと。手応えのない壁だからこそ、いつまでたっても乗りこえられなんかしないっていうことが。
僕はそんな顔できるきみが憎い。
そんな顔できるきみを憎む僕がいちばん憎い。
きみが泣きだす前にいう。
この先二度とくちにしない。