前々記事の続きです。
・連続ついのべシリーズ
「川北と葛西と私」
(47~69)
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・47・
「俺達はパンクバンドだ!」川北は社長に言った。「アンタの味方をするかもしれないが、敵になるかもしれないんだぜ?」社長は微笑む。「私はパンクが好きなんだ。君達と契約したい」川北は信じられない、という表情を私に見せた。「ただし…契約は一度だけだ。結果を見せてくれ」 #twnovel
・48・
「私は私の歌を歌いたいだけだ。川北のギターに乗ってね」私は井上さんに言った。「川北のギターが無いと、私は歌えないんだ」「あんな奴と付き合ってるのは無駄だ」井上さんは鋭い目で言った。「…ムダ?」「キミの歌にこそ、価値がある」「…わかってないね。私の歌は、私のモノ」 #twnovel
・49・
「だから井上さんには扱えないよ。いくら音楽のコトがわかっていると言っても」井上さんは私をにらむように見ながら、ゆっくり言う。「確かに、川北のギターは魅力的だ。しかしソコから離れられないのは不幸だ」私は立ち上がった。「…なら、不幸でもいい。このハナシは終わりだ」 #twnovel
・50・
「なんなんだよオマエらは!人を奴隷のように扱って、それが楽しいのか!?」川北は井上さんをにらみつける。「すまないな。しかし、よい勉強になったろう?」井上さんは余裕げに笑った。「心が、痛まないというのか?」「まあ、そうだな…」「この野郎!」川北はイスを投げつける! #twnovel
・51・
「アンタらのやってるコトと言ったら…奪い合って、憎しみ合ってるだけじゃないか!」川北は激昂していた。「そんなヤツらの言ってるコトなんか、信じられるかよ!?…信じられるかよ!?」井上さんと木下社長は、川北の剣幕にあっけにとられていた。「帰ろう、川北。」私は言った。 #twnovel
・52・
「殴らせろよっ!」川北は言った。「ちょ、ちょっと待て川北っ!」私は止めようとしたが、それより速く川北の右拳は井上さんに向かって…弾き返された!「うぇっ!?」川北が驚く。そして井上さんは川北のアゴにアッパーカットを入れた!…倒れる川北。「サラリーマンをなめるなよ」 #twnovel
・53・
「メジャーデビュー、ダメになっちゃったね」私は川北に言った。「…まあな。すまないな」「うん…」「だが自分の歌いたい歌を歌えないんなら、メジャーでやる意味は全く無いのさ。そうだろう?」「…ああ、そうだね」…私は珍しく笑顔だったんだと思う。あの5月。 #twnovel
・54・
停電の日、川北が私の家にやってきた。「あれ?川北、どうしたの?」「ああ、この地域も停電なんだな。…ちょっと不安になったからな」「…そうか。ありがとう。まあ、何にもできないけど…泊まってく?」「すまないな。…不安なのは、オレの方なんだ」急に川北は私を抱きしめた! #twnovel
・55・
「教えてくれよ!オレが間違ったというなら…どこが間違いだったか、全力で教えてくれよ!」川北は泣きながら言った。葛西が静かに答える。「単純。直情。後先考えない。頑固」「おいおい…」私は葛西を止めようとした。葛西は言う。「でも大して間違っちゃいないさ。それが川北だ」 #twnovel
・56・
「何の為に生きてるんだ!?」川北は観客に訊く。「そんなにラクして生きたいか?人間の心を無くしてまで!?」観客達は静かだ。しかし一人が「それは違う!」と叫んでくれた。「オレは嫌だね!辛いコトも感じる心を持ち続けていたい。どんなに痛めつけられても、オレ達は生きる!」 #twnovel
・57・
川北はひたすらにミュート・リフを刻み続ける。私はそれに合わせて、自由に歌う。思いつくまま。葛西のベースと海人さんのドラムはしっかり私達を支えてくれていて、最高の気分だった。まるで宇宙空間を浮遊しながら歌っているような気持ちだったんだ。 #twnovel
・58・
蛍が静かに歌い出した。「壊せるなら~壊したい。」ひと息、吸う。そして、叫び声!「世界を!自分を!アイツを!アナタを!全てを!全てを!全て、全て~を~!」…私は嬉しくて笑ってしまった。蛍、ちゃんと歌えるじゃん。自分の想いを、歌なら伝えられるんじゃないか…!最高だ。 #twnovel
・59・
「うるせえ!アンタらは求め続けたのかよ?理想を、幸福を…求め続けたのかよ!?」川北は井上さんに言った。「…アンタらが…求め続けなかったから、こんな世界になっちまったんじゃないのかよ?本当に、本気で求め続けたのかよ!?」「……。」井上さんは気圧されていた。 #twnovel
・60・
「こんなに世界を腐らせておいて、投げ出しちまうのかよっ!」川北は井上さんに詰め寄った。「…また、殴られたいのか?」井上さんは冷静だ。「いいよ。殴りたいんだったら殴れよっ!それでこの腐った世界が変わるんならな」川北は本気だ。 #twnovel
・61・
「この世界が腐っていくというなら、全力で腐らせるのを止めなきゃいけないじゃないか!なんですぐにあきらめちまうんだよっ!」川北は井上さんに掴みかかる。「…もう無理だよ。あきらめよう」井上さんはひどく疲れたようだ。「嫌、だね。オレは最後まであがいてみせる!」 #twnovel
・62・
「アンタらがこんな世界にしちまったんだろ!?…そのクチでよく言うぜ」川北は井上さんに言った。「こんな世界にしておきながら、アンタらはもう何もしないっていうのか?勝手すぎないか?」井上さんは絶句だ。「動いてくれよ。アンタにはまだそのチカラがあるハズだ」真剣な川北。 #twnovel
・63・
「老人達はそれでいいだろうさ。だが、後に残された者達はどうなる?この負の遺産を背負って生きていけというのか?」川北は木下社長に言った。「…そこまでは、考えもしなかったな」力の抜けた様子で、木下社長は言った。「とぼけるんじゃねぇ!こうなるコトはわかってたハズだ!」 #twnovel
・64・「歌いたい。」急に、葛西は言った。「…え、だって葛西…歌は得意じゃないじゃん」私は言ってしまった。「歌いたい歌があるんだ。」葛西はいつものように無表情だった。「…いいんじゃないの?歌ってみれば。失敗しても知らないけどな」川北は軽く笑いながらそう言った。 #twnovel
・65・「叫んでみたいんだ。川北みたいに」葛西は言った。「珍しいね、葛西。」蛍は葛西に言う。「…いいんじゃない?葛西が叫べば、きっと新しい曲ができるよ!」私は心から言った。海人さんがゆっくりドラムを叩き出す。私はテルミンを操る。蛍がギターを弾く。そして葛西が…叫んだ! #twnovel
・66・
「この日本の状態に絶望していないって?甘い認識力だな」葛西は川北に言った。「絶望したところでどうなる?俺が変えてみせるよ、この状態をさ」川北は言い返した。「じゃあ、やってみせろよ」「やってみせるさ!」川北と葛西は言い争いをしながらも、楽しんでいるように見えた。 #twnovel
・67・
「音楽で、この世界を変えて見せる」川北は不敵に笑って、ギターをかき鳴らした。葛西も笑って、呼応するようにベースを響かせる。「何の曲をやる?」私は川北に訊いた。「何でもいいさ。合わせるから」私にとっては、この小さなスタジオの中に三人でいるコトが、完全な世界だった。 #twnovel
・68・廃電車を三つつなげたライヴハウスを葛西は作った。「縦長すぎないか?」川北が訊く。「まあ、普通はね。でもこうすれば…」葛西が先頭車両のレバーを引く。車両の横壁両側が、倒れて開く。「オープンエア、だよ」「すごい…!」私は驚く。「防音されないじゃないか…」川北は笑う。 #twnovel
・69・
歌おう、私は私の歌を。そして川北は川北でギターを弾くだろう。葛西は堅実にベースを弾くだろう。海人さんは派手にドラムを叩いてくれる。…充分だ。充分すぎる。「…栄光だ、吼えよう、吼えよう!」咆哮、咆哮! #twnovel
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というわけで、まだ完結していませんが……
「川北と葛西と私」、
69ついのべ、まとめてみました。
あと少し、外伝的に書いたモノもあるのですが、それはそれで置いておいて、また書いていきたいと思います。
まとめてみてわかりましたが、書いてないシーンや、決めてないコトがいっぱいありますね。
(^-^;)
まだまだ続きます。このついのべシリーズ、書いていくでしょう。
へそ天!
ゆないキズトでした!