四行詩の例。haruo uema小説試筆帳 -2ページ目

四行詩の例。haruo uema小説試筆帳

作り方は自由な四行詩を作品例で話します。

隠喩(metaphor)で綴る人類の姿に隠された大きなテーマ(生命)

   1

 モニター画面に「久美(くみ)」と入力すると、登録された番号「pyupyapyo019353」は表示される。二十歳の最終試験だけれど、21世紀の大学受験より簡単な内容。
 ちょっと説明すると、地球では惑星移民が実行され、このmetaphor星に移住し、すでに20年が過ぎた。だから久美はこの星の第一世代だ。今更ながら地球のことに興味もない。

 ただ、人類としての知識は必要らしい。だから試験があるわけで、ネットで学習させられる。ここで疑問。だって、ネットに繋がってるし、解答はすぐに調べられる。
「何か別のことをテストしているのでしょ」
 久美は呟きながら試験問題を見る。これまでの歴史を述べよ、だってさ。答えを要約する。常識問題で、両性具有まで進化した人類は地球から拒絶された。

 それで惑星移民を計画する。それにはプロキシマ・ケンタウリに隠されて21世紀では確認できなかった恒星の発見が後押し。そこに地球型惑星は存在した。
 地球に残る人類や、移民での争い、事故などは、書けば長くなる。
「ま、いいや。適当に」
 この試験が重要とも思えない久美。

 惑星のテラフォーミングがロボットによって完成して、惑星を「メタフォー(metaphor)」と名付ける。今も夜空に輝く月は、移民船の母船なのだ。つまり、衛星は無かったっていうこと。
 移民してからのことも要点をまとめる。日本人船団の一つ、pyupyapyo号に所属している人類の一組が、この地域に住んでいる。だから、「久美」あとの番号はpyupyapyoから始まる。

 次に現代の生活について。
「今の生活って。何かあるのかな」
 起きると食べて何気にお喋り、昼飯と昼寝。少しは運動を奨励されている。そして夕食、古い娯楽のビデオを観て、就寝。
「これを便利というのか。生まれたころからの繰り返しで、何が便利になったのかしらね」
 この星では地球での過酷な生活を知らない。

「んとね、ちょっと待って」
 なにが違うのか、古代地球の風俗を調べる。やがて、色気と食い気が人間の本能、だと情報を見つけた。
 食べ物は、宇宙船の中のときよりは満足できてるらしい。それは大人の言葉だ。色気は、両性具有の今、種の保存のために番うことはない。それがセックスレスの雰囲気を形成している。

「色気と食い気。色気ねー」
 久美はその言葉が気になる。異性として(まぐあう)ことはない。もしかして重要な情報をネットは削除している。今は月に在るマザーコンピューターの仕業か。

 最後の質問欄、何と質問すれば良い。考えて思いつく。女性と男性の違い、を入力する。
「存在しない概念です」
 モニターに表示された。同時にネットの接続が乱れる。それは他の試験を受ける者も同じらしく、ざわめく。


「今でも生物的な雄雌の体形を持っている。両性具有といっても、体外受精をして、妊娠は女性体形の子宮」
 それも進化というのか。無理して性別はないことにしている。しかし性別で身体は存在する。すると一部だけ変えたのか。

「生殖器官へ過去に遺伝子操作をしましたか」
 質問を打ち込むと、停電した。
「本日の試験は終了です。それでは各自の部屋へお戻りください」
 教官は何事もなかったように言う。
彼女は怒った、童顔だからと舐めるな、と言いたい。人は見かけで性格も判断するようだ。

 ai画像・久美イメージ

「答えてください」
 久美は立ち上がり、過去に遺伝子操作をしましたか、と尋ねる。だけれど、他の人々は面倒くさそうに帰りにつく。教官も「私には分からない」と首を振り部屋を出て行った。

 空気コンディショナーも止まり、暑くなる室内で、彼女もそれ以上は追及する気がない。分かっていることは試験のあと、軽い仕事を任される。居住管理か惑星開拓管理か、どちらもロボットに任せて、食べては寝ての繰り返しになるだろう。

 だけれど、この星での生活がすべて。移民船で生活していた大人とは、まったく違う価値観と存在感を持ち続けて久美は二十歳を過ぎたのだ。

 

    2

 

 久美は部屋に戻りシャワーを浴びる。惑星に着いてから水は充分に使えるようになったらしいが、彼女は生まれたころからそうしている。
「なんだろう、この気持ち」
 (純)を思いだして左胸に右の掌を乗せる。
純の顔は女性体形に多い形だが、男性体形だと、ある時に知ってしまった。
「やっぱり、この柔らかさが違うんだよ」
 純が肩に手を置いて言う。確かにお互い肩を寄せると、相手の弾力が強く、久美も純の身体が柔らかさとは違うと感じた。

「身体を合わせることは、他の人も有るらしい。それは遊びと認識されている」
 何かぬくもりを求めて、相手と秘め事をするわけではない。思えば、体外受精で生まれた子供はすぐ保育器へ。(ぬくもり)という言葉を人類は忘れてしまっている。
家族という概念も消えた。


「でも、何かを求めているのよ」
 掌を蠢かす。逆さのお椀が身体の芯を揺さぶる。グミが潰れながら、くりくり回り、固くなる。
シャワーを壁へ掛けると、両手の掌で、逆さのお椀を揉み上げる。水は滴りながら曲線をなぞり、女性体形の特徴である谷間の林をしっとりと潤す。
 唇に水しぶきを受けると口づけを思いだし、両方のグミを弄り回す。喉が呻いて顎が上がった。
 プルンプルン揺れる二つの逆さのお椀、反り返って突き出た腹に、シャワーは無数のキスを繰り返し、次を促す。
 シャワー口を左手で掴み、膝を曲げて座りながら太腿へ当てる。むずむず、熱くなる女の応接間。
「もっと」喘ぎながら零れるかすれ声に、右手が応じるように林を弄り、
赤ちゃん指が閉ざされた扉を開ける。お姉さん指は応接間を散歩して、火災警報ボタンを探り当てる。疼きで息が詰まり、はぅっ、と鼻から漏れた。
 シャワーのせいではない、内側から滲み出る液体、お兄さん指が滑りながらスイトピーの蕾の中へ入ってゆく。
 左手はシャワーを放して右手に添えるが、お兄さんを待ち受けて、きゅっとお腹が締まる。

 満たされたスイトピーの蕾、花びらが痺れて喘ぐ。彼女は野生本能だけで動く。身体を曲げて、もっと奥、と、お母さんとお父さんを臍の方へ突き動かす。
「ぃやっ」久美の背中は反り返り仰向けに崩れ、開かれた両膝が胸越しに見えて、シャワーが林に降り続けた。

 

    3
 
 久美は惑星管理ステーションで働くことになる。きっかけは、過去に遺伝子操作をしましたか、の質問がマザーコンピューターに評価されたからという。大きな戦争のあとで、悪意ある人間が都合の悪い情報は入力しなかったのが真相だ。

「今じゃあ、どうでも良い。これからさ」
 彼女が数人の仲間に言うと、それでどうする、と急かされる。
「この星、metaphorが私たちの母星なんだ。地球と同じ環境や文明なんて知らない」
「自然と同化する意味と受け取っていいかな」
 かなり老けた男性体形の人物が頷き答える。
地球へ残った自然回帰説の人類と共通するところもある。

 しかし、今、(人類は滅びないで地獄へ歩いて行った)科学文明を知ってしまった。
女性体形の老人が意を決したようにみんなに言う。
「metaphor生まれに期待している。マザーコンピューターの最終使命vwxy計画を実行しましょう」
 結局は、あの試験で疑問を持つ二十歳を探していたのだ。

 この世界の各地に散らばる、久美の同志。各地でvwxy計画は内緒で実行されることになった。表向きは(惑星メタフォー調査チーム)で、分かりやすいように仲間の名前にvwxyをつけるように奨励している。

 ステーションといっても衛星じゃないわけ。今では数少ないネットのオンライン会議。商売を除けば、21世紀でもさほど盛んではなかったらしい。
「何か変えられる、違うかな。何かを創り出すんだ」

 久美は呟き、資料を見る。
(vwxyはzの前。お終いになる前という意味。地球文明を反面教師として、人類は精神的な成長を遂げるのだろうか)
 答えは誰も分からない。ただ惑星metaphorの大自然は地球よりお節介で、色気と食い気に満たされていた。
 vwxyを名前に持つ女性体形、つまりはメタフォー(metaphor)で乙女のsensual体験が始まった。

     続く

『星に愛された乙女たち』プロローグ・了