少しsensualなショートショート集に隠された大きなテーマ(生命)
久美は小川のほとりにいる。暑いこの惑星で、ホットパンツに開襟シャツなのはどこでも共通だ。胸に付けられたネームプレートは所属を知らせるため。
水の流れる音が心地よい。渡るには危ないと思っていたら、向こう岸から誰かが渡ってくる。隣の地域、omeko号に乗った人類が居住する場所だと分かってはいる。
「危ないですよ」
隣の地域と接触したい思いもあり、ここまで来ていたから、気軽に声をかける。
「ちょっと魚をね。たまに石へ隠れているんだ」
男性体形と思われる太い声。そういうと近くの石をひっくり返し、素早く何かを掴む。身をくねらせ暴れる魚だ、そんなに大きくはない。
「食べるんですか」惑星メタフォーの生物も食べられるから、食い気も満足させられる。
「観賞用。そういう趣味のグループがあるから」
言いながら、こっち側に渡ってくる。確かに腕の筋肉は引き締まり、スポーツでもしていると思われる。
「慣れたよね、ここの生活も。あまり隣の地域とは交流もないけれど」
「ゆっくりですよ、このように知り合いながらね」
喋りながら袋に魚を入れる。久美は相手の仕草を眺めながらネームプレートを確認。vwxyは付いてないが、このように自然へ親しむ人類が増えるのは喜ぶべきこと。
「自然と一体になれるのが一番よね、私、久美といいます」
名前は見たけれど、本人が教えないと、呼ぶのも失礼になる。
「私は未知留。魚を生け簀(いけす)へいれないと。じゃあ、今度な、久美ちゃん」
ちゃん、ですか。ちょっと戸惑う。もう二十歳だぞ、この顔だけれど、と幼すぎる顔立ちに不満もある彼女。
話を続けたいが、未知留は踵をかえして川に入り渡り始める。しかし足元を滑らしてよろけた。
「怪我は」と言いながら川へ入り近づく。水が跳ね返って開襟シャツも濡れた。
うっすらと透けて、ピンクの下着が浮かぶ。
「大丈夫って、いつものことさ」
振り返り、少し照れながら頭をかく。あんがい可愛い表情になる。
「また、ここへ来ますね」 仕事ではなくて、ただ遊びで訪れようと考える。
未知留は返事もしないで今度はしっかりと水を弾いて渡っていった。川の中で久美はふくらはぎまで水につかりながら胸の鼓動が早くなる。
野性的な人類には初めて会う。湿った開襟シャツに気が付き、透けてる下着のピンクに顔が熱くなる。ちょっと恥ずかしい、
イやっ、かなり恥ずかしいことをしちゃったかな。
これから何が起こるか久美は知らないし、遺伝子操作だろうと、進化だろうと、惑星metaphorは優しく人類を包んで受け入れた。
2
久美が未知留に会ったのは思いがけない場所。惑星開拓管理室だ。この仕事では隣との交流もあり、vwxy計画の進行状況を調べるために来ていた。ロボットは停止し、人類は早めに夕食のために帰宅。
久美も玄関で帰ろうとするときに未知留が来た。
「えっ、なんで」
そう言うつもりはないが、適切な言葉を探せない。何故か激しく動く心臓、分かっている、最近は未知留のことがいっつも気になり、ゆっくり会いたいと願っていた。
「近くにうちの管理室もあるから」と未知留。
それで、なんの用事かは、はぐらかす。川で3回ほど逢って話はした。両性具有の問題点を男性体形からを熱心に語っていたし、恋についての経験談は久美に焼きもちと、愛し合うことへ憧れを呼び覚まさせた。
「ちょっと、ゆっくり話したいね」
「どっち」日本語として分かる表現ではあるが、ゆっくりしたいのか、ちょっとだけなのかと尋ねる。
「ええっ、あのっ」
普通じゃない状態を見透かされてなおさら焦る久美。ここで、どこかゆっくりできる場所を考える。
「そうだ、屋上。星がきれいだよ」
「良いよ。うちと同じ構造ならベンチとテーブルもあって、天体観測にぴったりだ」
言うと面白いというように笑う。
「おかしいですか」
どうも未知留の考えが分からない。
「太陽が沈まなければ星は見えないが、ゆっくり待てるなー」
ああ、そういうことか。それには、軽く笑って誤魔化す久美。
「あれ、夕焼けに頬が染まったね久美ちゃん」
「違うって」確かに恥ずかしさか、未知留に会ってのぼせたのか顔が熱い。
そういうわけで屋上へ。ここは誰もこない、普通は。だが発見した、隣の管理室が見える。
「近いんだね」
ベンチに座り眺める外は未だ夕暮れに早い。
未知留が向かいに座る、小さなテーブルは手を延ばせば肩を掴める距離だ。
「だからさ。見えたんだ、久美ちゃんが訪れるところ」
え、ええっ。それで逢いに来たと。何か答えたいが見つめられて俯く。
3
両性具有は女性体形だから成り立つ。男性体形から卵子を取り出すのは苦痛だ。穴が一つしかない。それを拒否する男性体形は増えていたらしい。
「だから、俺は卵子が作れない身体だよ」
「そう」短く答える。二つの驚きで、少し適切な言葉が探せない。
今日はどうにかしている彼女。(俺)という表現は昔の記録ビデオでしか聞いたことがないし、新鮮だ。そして、ふと思った、彼は元の男性に戻るのだろうか。
「私も、何かが足りない気がするの」
男女平等、ジェンダー、過去の悩みを解決するはずの両性具有。はたしてそれで良いのか。答えはvwxy計画と野性を取り戻した未知留たちが見つけるだろう。
未知留は席を立つと久美の左側へ座る。太陽が傾き、柔らかな光を正面に受ける。同じ方向を見つめるのが愛、久美は古い言葉を思いだす。
「あの、初めてじゃないから。私、いいよ」
未知留と秘め事をしたいと思い、考えていた台詞。なんで身体が震えるのか分からないけど。
「恋と遊びは別だよ」
身体を外へ向ける未知留。
彼女は、なんでよ、と口には出せないで拳を作り握りしめる。
「なんか分からないけど、変なの。遊びじゃない、信じて」
泣き声になるのを止められない。遊びといっても純と触れ合った一回だけだ。確かに未知留への思い、感情の動きは初めて経験する。
古代から男は女の初めての男性になりたがることも、久美は知らない。
「遊びで身体を許す女性には見えないさ、久美ちゃん」
ぐっと近づいて頂点の髪を撫でる。久美もなぜか震えは収まり、確かな暖かいなにかを感じた。そう、今まで求めていたものだ。
「もしかして初恋ってやつ。ごめんな、ちょっと久美のことからかいすぎた」
それに首を何度も振る。髪の毛が乱れて彼の顔にかかる。
「久美の」
あれっ、自分のこと名前で言っちゃった。
「最後の男性に」
うわー、とうとう言っちゃったよ。
「なってください」
彼をみつめる。もう戻れない。
久美は両性具有の束縛から離れた。夕焼けが色づき、彼へ持たれる彼女の肩へ左手がかかり、未知留は右手で久美の前髪をかき上げる。彼女も今はこのまま、彼のぬくもりを感じてるだけで満足。
4
久美は街燈に照らされたドアを見つめて、未知留の厚く固い手を握る。覚悟はとっくにできている。
「こんな場所があるの」
四角の小屋みたいな建物で、緊急治療室と書かれていた。外で働く機会が増えたら必要になるらしい。
「なんの治療かは書かれてないから」
「そうね」応急処置が必要だよ、私。久美は心で呟く。
彼がドアを開けると中の照明がつく。中へ入るとベッドは当然、医療器具も並び薬の匂いも微かに残る。
ベッドへ歩く久美、「ここで、ねぇア、イヤッ」未知留が後ろから抱きしめた。
開襟シャツの上から逆さのお茶碗を包む指先。彼も思いが溜まりすぎてる。
彼女は両腕を上げて曲げると彼の頭を挟み、髪を撫でる。逆さのお茶碗を揉みしだかれ、胸で踊る彼の指を伏せ目でみつめる。なぜか、乱れてはいけない、と感じる。
もしかして、一人で快楽を求めるときは、気持ちを盛り上げようと意識して大げさに悶えるのか。
今は静かに奥深いところの塊が熱を持ち始め、徐々に興奮が高まりだす。
「待ってたんだ」
彼は彼女を半回転させると、背中をグイっと抱く。女の乱れた襟足から(丸く薄い布)もずれてるのがみえる。
「やさしくね」
ささやきながら彼の髪をまさぐる。目を伏せて、顔を彼へ向けると、柔らかな部分が唇に触れる。眩暈がする久美。これは自分自身で体験できないし、遊びでは感じない彼女自身の目覚め。もうどうされても良い。
久美の左のグミが露わになり、姿勢を変えて、右のグミも彼に食べてもらう。未知留の手によって(彼女そのまま)が照明に照らされて行き、白く輝く。
つま先へ落ちて邪魔になる厚い布、するすると彼が薄い布切れを剥がして彼女の膝へ下げる、もう脚も身体を支える力が抜けそう。久美は未知留の肩へ両手を置き支えにする。女の応接間へ訪れて欲しくて、林を彼の前に突き出す。彼の柔らかい鞭は応接間の扉をなぞり、彼女を期待させるが、焦らして上へ徐々に旋回しながら移ってゆく。
彼が(大きい頬っぺた)へ手をやり、スルメイカが暴れて彼女の臍へ当たる。柔らかい鞭はグミを弾き、久美のすべてを食べ尽くす。捕らわれた魚の彼女の身体はよじりくねる。
彼女の口びるを探し当てた柔らかい鞭。半分開いて受け入れる久美。林をスルメイカが散歩しているので息も荒くなる。それでも自分の柔らかい鞭を伸ばして、お互い絡めあう。
息が詰まるほどに交差して合わさる唇。彼女は左足を彼へ絡めて、スルメイカを林の奥へ誘おうとする。
「久美ちゃん、愛してるよ」唇をずらし囁く未知留、(彼女そのまま)の久美をお姫様だっこしてベッドへ仰向けにする。
「て、みちる、み、アー」
彼女は雌の猫のように喉を鳴らし、曲げて揃えた膝小僧を離して、イチジクの葉を足首までずらした。
そして、スイトピーの蕾の中へ彼が訪れてきて雌しべを求める。彼女は花びらで包み込んだ。
本当に恋した相手だから、すでに夢の世界にいる彼女。咲き乱れる花、蝶々が飛び交い、蜜を求める。いつもは花で、蝶々を待ち受け、蜜を吸われた感激がecstasy。
今日は蝶々になる。今日は蜜の美味しい花を探している。大きなチューリップを見つけて飛び込む。甘さが全身に広がり羽も蜜の中に沈む。
蕩ける、身体と心が蕩けてイク。
5
久美は再び惑星管理ステーションでオンライン会議をしている。情報収集に使っていた、陸に生息する蛸「ハニャー」の扱い方を決めるためだ。
久美は生まれる前で、惑星管理ステーションに参加する時に聞かされた。
海中生物の蛸が陸上の生活に順応できるか試したらしい。それで、ハニャーは適応して人間に付かず離れず暮らしていた。だから、情報収集装置を埋め込み、便利に使ってしまった。
新しい段階に入る前に、ハニャーを海に戻すか、人類が組み込んだ装置を取り外すか。
「一度は生まれた生物を、どうこうする権利はないと思う」
英語が翻訳されて表示される。久美も同じ意見だ。陸上で生活しているのを海へ行かせるのは、あまりにも自然へ干渉しすぎと思う。
「それも私たちの責任で抜き取らないと、可哀そうだよ」
それに、また負担をかけて取り出すのはどうか、と意見が出て、久美も考えが至らなかったと、その意見へ賛成する。
問題は中へ埋め込んだ情報収集装置をどうするかで、意見が何度も交わされる。
この星で人類が犯した罪は、自分の都合で自然や生物を変えようとしていること。結局は同じことを繰り返している。理想の知的生物には未だなれない。
「これ以降に自然分娩で生まれるハニャーには、装置を埋め込まない」
「それが無難だ。vwxy計画は次の段階に移るということでいいかな」
それはマザーコンピューターとの決別。それもマザーコンピューターの計画だった。
人類は滅びない、科学だけを信じ地獄へ歩いて行った経験を活かせるか。罪を犯したり赦したり。間違いながらも、生物として強い精神を備えるように進化できるか人類は。
この惑星metaphorが見守り続ける。
続く
終了ですが、次回の『星に愛された乙女たち、本編』(第一話)へ続く。
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