ねぇ、靖幸?

あたし、あなたがくれる優しさや嬉しさ、寂しさや切なさ、

そして渇いた痛み。

どれも愛おしくてたまらないのよ?

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「どうなった?岡村くん、ライブやんの?」

このおかしな病が流行りだした頃から

友人は何度となくあたしにそう訊いてきて。

-ううん、まだわかんない。発表が無いんだ……

ただ。

今年の春のツアーはきっと

あなたはいつもよりチカラが入っていると思うの、あたしは。

-アルバムツアーだから……。本音はきっとやりたいと思うんだ。

「そっかー。今回はタイミングも運も悪かったね……」

そうね。

なんでこんなおかしな病が拡がっちゃったんだろ。

-あたしもね、逢いたい。ステージで聴きたい。

……言えずに飲み込んだ言葉。

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アルバム、最初の発売日が何かの理由で1週間延びた。

そのことを彼女に話したら

「………え。また?岡村くん、また何か引っ掛かってるの?」

って。

昔、アルバム延期に継ぐ延期を知っていて

それであたしがむくれたり泣いたりしてるのを知ってるから。

-ううん、たぶん違う。なんだろ……1週間延びただけ。社長さんは「中身はバッチリ」って言ってるもん。靖幸が理由じゃない気がする。

「1週間か。……原因はコロナか?!(笑」

物流や生産がいろいろ停滞してる。

それもあるのかも知れない。

こんな大変なことになるんだ……って日を追うごとにに驚いて、

その驚きが今度は恐怖に変わっていく。

「ライブ始まる頃には終息してるといいね。逢いたいでしょ、岡村くんに(笑」

逢いたい。

逢いたいに決まってる。

半年前からずっと待ち続けてるんだもん。

半年前の秋ツアー、いつもそうなんだけど

逢いたくて逢いたくてたまらなくて

やっと逢えて嬉しくて。

終わってしまって「またね!ありがとう。」って投げキッスを受け取りホールを出た瞬間に

大きな寂しさがあたしをすっぽり包み込むの。

あなただけなのよ?

あたしに嬉しい気持ちと寂しくてたまらない気持ちをくれるのは。

寂しい気持ちを次のツアー日程眺めて紛らわせるの。

寂しさが消えることはないし、

ともすると深すぎる寂しさに飲み込まれてしまいそうになるけど、

その寂しさはあなたしか与えてくれない寂しさだから

あたしはその寂しさと一緒にあなたを待つことにしてるの。

そうやってあなたを待った半年。

その間にたくさんのサプライズをあなたはくれて。

その中でもあたしにとって最高のサプライズで贈り物だったアルバムと

アルバムを出して、のツアーだったの。

きっとあなたも新しい音を連れて、のツアーだから

いつものツアーとはひと味違う気持ちだったんじゃないのかしら、って

思えば思うほど、このツアーをやって欲しいしやらせてあげて欲しい、って

とにかくどうかこのおかしな病が1日も早く終息して欲しい、って

そればかりを祈ってたのよ?

ギリギリまで待って、アルバム発売日の2日前に

4月前半4公演の中止発表。

だけどね?

正直ホッとしたの、あたし。

ウイルス、終息どころか猛威を振るってる。

こんな状態であなたが各公演地を移動したら。

「○○、感染したら怖いじゃん。」

友人はそう言ったけど

-あたしは……靖幸が感染するのが怖いよ。もし移動してウイルス拾って感染したら。何かあったらあたしはもう立ち上がれないから。靖幸のいない世界に残されるの、イヤだよ……

「そうだねー。新幹線とかでも移りそうだしね。」

東京の感染者数が日増しに増え続けて、ニュースを見る度

どうか早く終わらせて。ひとりでも多くの人を助けて。

そしてあなたに感染しませんように、と。

先延ばしになった、行くはずだった公演2会場のチケットを眺めてため息をつく。

……どれだけでも待つから。

届いたアルバムとチケットを並べてそう思ったあたし。