ホテルに着いて、荷物を下ろし

会場に行くのに必要な物だけをトートに移して。

しつこいくらい、チケットの日付を確認する。

今日はおかしな出来事ばっかり起こってる。

間違えたら大変なことになっちゃうから

しっかりしてよ、あたしのダメダメな脳みそ!!

初日のチケット、お財布、ケータイ。

乗り換え確認にケータイは絶対必要。

どれだけ頭に叩き込んで行っても、びっくりするくらい間違えるから。

天然記念物級のボケボケ頭。

東京の公共機関の乗り物の数になかなか慣れない。

「余裕みて行ったほうがいいよ」

千葉の友人の言葉に従って早めに浅草を出たはずなんだけど

開場時間の結構ギリギリで中野駅に着く。

着いて程なく入場開始。

中野サンプラザはあたしはこれで3回目。

最後列の出入口に立ち、回りを見渡して。

ステージまで、これだけ傾斜があればよく見えるのね、って。

あたし、このホール好き。

階段を下り、自分の座席を確認する。

-かみ手なんだ……この番号。

居場所にこだわらないから、調べることもしなかった。

自分の席を見つけて腰を下ろしてホールを見渡す。

-よく見えるよ、ここ。

座って、名古屋と千葉で逢ったときのあなたを思い返して。

-名古屋はもう、ずーっと笑顔でニコニコ歌ってくれてたのよね。

-千葉はなんだか穏やかな微笑みを見せてくれた。

今日のあなたはどんな笑顔を見せてくれるんだろ……。

短い待ち時間、色んなことを思い返しているうちに

館内放送で間もなく開演の知らせが流れる。

いつから「まもなくDATEですよ」になったんだろ。

可愛らしい放送にあなたらしさを感じて、クスリと笑う。

幕が開き、あなたが姿を見せる。

今回のツアー、あたしこのオープニングで心を鷲掴みされたの。

どの既存曲も新曲にしてしまうあなたの才能にため息がもれる。

途中まで、あたしが見てきた2公演と、ほぼセットが変わらなくて

うんうん、この曲のこのアレンジがまた良いのよね、なんて思いながらあなたを見つめる。

このホールは音が素晴らしく良くて。

今日はドラムとベースが骨から伝わり、

ギターが脳に染みる感じで入ってくる。

耳が痛くならなくて嬉しい。

ボーカルの旋律が、言葉が、キチンと心に伝わる。

間のMCで、ベースマンの横倉さんの誕生日を知り

ステージでアットホームなバースデータイム。

微笑ましくて思わずニッコリする。

あなたのバンドメンバーがこんなに仲良しなのは

あなたの人柄のお陰なのよ?

きっとそんな姿を笑いながら眺めてるんだろうな、って。

ひとり暗闇に姿を隠してやすんでるあなたの

見えない心の内を想像するの。

素敵な人たちに恵まれて、あなたはきっと「ラッキーですね」って言うんだろうけど

あなただから。

あなたの人柄だから

そういう人たちが集まってくれるの。

あなたもびっくりするくらい素敵な人なんだから。

賑やかなMCを見て、ステージは進んで行くんだけど

ふと。

-今日はあまり笑ってくれないのね。

そんなことを思う。

あたしがよく見えないからかな?とか

誰かお客様いらしてて、緊張してるのかも。とか

色んな思いが頭を過ぎりながら、あたしはステージのあなたを見ていたの。

スティービーワンダーの2曲目になるカバーから

今回はバラードじゃなくてアップテンポな「ア・チ・チ・チ」と「聖書」でまとめて。

「聖書」聴けた!って嬉しかったな。

ラストの「ビバナミダ」

あたしは初めてでした。

いつもあなたの歌う歌詞に合わせて声を出さずに歌詞をなぞるあたし。

「………?」

あたし間違えた?って。

途中、歌い出しのフレーズを逃して。

歌い始めて途中でメロディに元の歌詞を戻した。

ダンサーさんが前を過ぎるのをじっと見てるあなたを見ながら

「……あれ?」って。

どうしたんだろ。

あたしは初めて見た。

だけどそこはさすがあなた。

表情を変えることなく、ラストをしっかりまとめて。

ステージのかみ手から順番に、客席にお礼の投げキッスを投げながらしも手に歩いて。

曲を終わらせ、ステージ中央に戻り

「ありがとうございました!」を言ってしも手に歩いて

そでで立ち止まり、もう一度客席に投げキッスひとつ送ってあなたが消える。

あなたを先頭に、そでに順番に消えていくメンバーを見送り終わると

座席に座り込み、暫くぼんやりしながら

「ホントにどうしちゃったの?今日は色々なんか変……」

気が付くと周りにいた人たちが殆ど外に出てしまい

人影まばらになっていて

記念に1枚、ステージのピーチマークを写させてもらい

あたしは漸く席を立つ。

宿に戻り、バスタブに浸かりながらボンヤリ考えて。

ベッドに横になっても、気になってうたた寝しか出来ずにいると

「秋冬のツアー、今年はおやすみします」

の情報。

………うそ!!!

そのまま眠ることが出来なくなり、

朝までずっと、色んなことを考えていたあたし。