(第六章 一体どーなる、ビザとピソ)
26. どーする、トイレが水浸しだっ!
メルセの家は、あの難民の館に比べたら月とすっぽんの快適さだ。屋上は
広い物干し場になっていて、はるかに地中海を一望することができる。
海から吹き上げてくる爽やかな風は、日ごとふくらんでくる焦りや不安を
やさしくぬぐい去ってくれた。そんなわけで、シーツを干しに行って一時間
ことにメルセがコロンビアに旅立った後は、家中使いたい放題。広いキッ
チンで料理も自由、ラジオやテレビもバルセロナに来て初めてゆっくり楽し
めた。もちろん言葉は殆どわからないけど、気がつくと画面と一緒に笑って
いたりするから不思議なものだ。
それにけっこう日本の番組もある。毎日何本もの和製アニメが流され、特
に「クレヨンしんちゃん」が大人気。あのお尻丸出しスタイルの絵のついた
文房具やらTシャツが街に氾濫してる。 だいたいがスペイン人はハダカ大
好き、すっぽんぽんの男女のポスターが至る所に張り出されていたりする。
でも日本人はあんなカッコで街を歩いちゃいないゾ~!
そういやここの子供たちの「オーラ!」の発音がなんか妙だ、無理やり
ノドの奥から絞り出している。あれは、しんちゃんのモノ真似なんじゃない
のか。もしかしてアニメの作者(ご冥福を祈ります)は、ここであの言葉を
思いついたんじゃないダローカ!
そんなことをブツブツ言いながらテレビを見てると、玄関のチャイムが
けたたましく鳴った。 ドアの穴から覗くと、一人のむくつけき男が立って
いる。こわごわ半分だけ戸を開けると、やたら興奮して早口でしゃべったか
と思うと、

強引に、家の中に侵入しようとする!!
これはやばいとドアの押し合い状態で話しを聞くと、鍵をよこせと言って
るらしい。それはますますマズイ! 「そこに鍵があるんだ!」と叫んでる
オッチャンをなんとか外に押し出し、ドアを閉めて外で話しを聞いてみた。
すると彼は隣に住むメルセの親戚で、鍵を忘れて出て、家に入れないのだと
言う。
でもこっちは人の家を預かっているので簡単に信じるわけにはいかないと
説得し、その隣の人に証人になってもらった。するとウソではないらしく、
オッチャンはメルセ宅の玄関から「ほら、ホントにここにあるだろう!」と
自分の鍵を一発で誇らしげに探し当てた。あ~ビックリした。 でもお隣は
親戚なんだ、こりゃあ家主がいなくても心強いや!
その一週間後、キッチンからセコタンの悲鳴が聞こえた。行ってみると、
メルセご自慢の洗濯機から水が漏り、あたり一面ビショビショになってる。
バケツ片手に必死で吸い出しやっと2時間後に洗濯機からの水も止まった。
そういやコイツ、使い出すとガタガタ震えだし位置までどんどん手前に
移動してきて、前から不安だったんだ。 ホースでも外れたのかと調べて
みたがさっぱりわからない。勝手に修理を呼ぶわけにもいかないし、親戚に
連絡するほどのことでもない、と、洗濯は手洗いに切り替えることにした。

するとその一週間、今度はバスルームからセコタンの叫び声が上がった。
なんと今度は便器の下が水浸しではないか。いったん水を溜める水槽から
ジャバジャバ水が流れ出している。中に入っている浮きの調節がうまくいか
ないようだが、これもどうやっても自力では直りそうにない。
こりゃエライこった! 洗濯機はまだいいが、トイレはそうはいかない。
毎回水浸しにしてたら下の家にも迷惑がかかる。すぐさまメルセを紹介して
くれたラウルに連絡した。すると飛んで来て修理してくれたのはいいが、
水漏れはかえってひどくなるばかり。もうどうにもならない!
それにしてもこれはメルセに連絡しなけりゃならない。ところがラウルは
彼女の連絡先を知らないと言う。じゃ~お隣りに聞くしかない。さっそく、
親戚のおばさんに連絡先を尋ねると、何やらやたらとソワソワして困惑しき
っている。それでも事情が事情だけに、なんとかして修理のできる人を差し
向けてくれることになった。
二時間後、大きな道具箱を持ったスキンヘッドの若者がやって来た。自分
は彼女の甥だという。よかった、これで何とかなりそうだと、ドアを大きく
開け迎え入れようとすると、後ろから、聞き覚えのある明るい声が飛び込ん
できた。

「オーラー、彼はプロだから心配ないわよ!」
なんとそこには、コロンビアに行ってるはずのメルセが、立っているでは
ないか! え~、帰って来てたの? と聞いても、質問をはぐらかすように
しゃべりまくり答えが返ってこない。一体、何がどうなってるんだ~?
狐につままれた状態で修理工事が始まったかと思うと、彼女はそそくさと
トイレの修理はその夜一晩中かかり、でもついでに洗濯機も直してくれて
なんとか助かったものの、彼女のミステリャスな行動はいまだに解明されて
いない。
たしかコロンビアに彼氏を尋ねに行くと言ってたから、もしや彼に振られ
ちゃって帰ってきたのか、それとも、最初から行っていないのか。いや~、
その線も充分ある。旅行をするには荷物が少なすぎたし、
親戚の対応も妙だった。
それにその後一度だけやって来て、買ったばかりの大きなコンピュータを
運び入れた。するとその費用をボクらの宿泊代で捻出するため、長期滞在
しやすいよう自分は姿を消していた? でも自分の家が心配だから、隣の家
から監視してた?
ハハ、そりゃーちょっと考えすぎダヨナ~!?
でもなにより一番不思議なのは、あれだけコロンビアに行くんだと話して
おきながら、悪びれた様子もなく明るく我々の前に姿をあらわせる神経だ。
きっと彼女は、ストレスなんて溜まらないんダローナ~! 
(まだまだつづきますよ~っ!)
それから、
やはりメルマガの
“知ってびっくり!地中海の不思議の国・バルセローナ!”
も、
数々の写真とともに再構成しました。
どうぞこちらへ
↓
http://page.mixi.jp/run_page_apps.pl?page_id=255339&module_id=1434011&from=menu
◇
◆
◇
以下に2冊だけ拙著をご紹介します。よかったら読んでみてください!
◎ 『勉強っていやいやするもの?』(大日本図書)
〈中高校生向けですが、‘哲学’についてもやさしく解説しています〉
◎ 『脳みそのほんとうの使い方《ビギナーズ編》』(日科技連出版社)
〈こちらはビジネスマン向けですが、やさしいです)〉
また姉妹編《マスターズ編》も出ています。


ーラ