(第三章 オーラ、バルセローナ!)
15. ひとつも情報が集まらない!
調理は不便、雨が降りゃ食べる場所もない、ベッドはギシギシ、トイレの
電気はつかない・・・。 でも、もっとキツイのは坂道だった。このあたりは
ほとんどがスキー滑降コース並みの斜面。毎日の買い物は“行きはよいよい
帰りは恐い”、誰もがフーフー言いながら、途中何度もベンチで休んでは
上っていく。あのマッチョマンは違うかと思ったら、 
やっぱり同じだった。
ところが一人だけ息切れもせずに上る人物がいる。オーナーの死に神博士
(?)だ。ヒマさえあれば庭に出て何百回と腕立て伏せをして、「いい若い
もんがこの程度の坂でヒーコラ言ってちゃダメだな~」とつぶやく。そして
その後何故か、こうつけ加えるのだ。

「そんなヤツに結婚する資格はないね!」
ハ~? この言葉の意味がわかってきたのは、もう何日も経ってのこと
だった。彼はとっても結婚したいのにまだ独身、そこへ若いイチャイチャ
カップルが泊まりに来る。いやでも、何故あんな男に女がくっつくのか、と
けれども若い女性同士がやって来る日には、例の石段に必ず長い赤ジュー
タンが敷かれ、日本から持ってきた着物を彼女たちに着せて記念撮影。
そしてお手製の大鍋パエーリャが振る舞われるという。
ふふっ、人間っぽくってほのぼのしちゃうね! でこの頃から、あの恐怖
の館がだんだん居心地が良くなって来ちゃった。
慣れればけっこう楽しいところなんだな~、これが!
なんといっても、世界各国から次々にいろんな人がやってくる。何日か目
にはポルトガルの若者二人が、メチャクチャ美味いポルトガルのワインと
ビール、それにスパゲッティまでご馳走してくれたっけ。 よくよく話して
みるとポルトガル人は決して暗くない。料理もとっても日本的らしい。
こりゃ~いつか絶対行かにゃ~なるまい!
しばらくすると今度は、韓国で英語を教えているアメリカ人の若い女性が
やってきた。さすがにきれいな言葉使い。お陰でしっかり英語の勉強まで
させてもらって世界の教育について語り明かしたのだった。
すると次には日本人女性が一人で泊まった。スペインのセビリャに住んで
ギターを学んできたという。 彼女の部屋から“アランフェス協奏曲”が流
れてきた時、CDとばかり思っていたら、なんと彼女自身が弾いていた。
メチャクチャ上手い! セビリャからバルセロナに移り住んだある大先生に
教えてもらいに来たらしい。
そしてその白髪の大先生が、翌日ほんとうにこの館に泊まり込みでやって
来た! CDやレコードも山ほど出しているという。
しかし興奮しまくったセコタンがいくら聞き耳を立てても、一向にギター
の音色がしない。その先生は、ギターにも触れさせず彼女といろんな話を
していたのだ。やっと実演に入っても基礎的なトレモロを繰り返すばかり。
基礎の基礎からやり直されて、ようやく最後にあの“アランフェス協奏曲”
を弾いた時には、彼女はなんとメロメロ状態。ついに大先生の演奏は聞けず
じまいなのだった。
それでもここスペインの地で聞くギターの音色は、乾いた空気の中で煉瓦
や石造りの建物に響きわたって、そりゃー、別世界の素晴らしさだった!

そんなわけで、一週間のつもりがもう十日延ばしてもらって、結局、二週
間半もこのペンションに居ついてしまった。 もちろんその間、決してただ
遊んでたわけじゃない。やらなきゃならないことは山ほどあった。
まずは、日本との連絡体制を確保しなければならない。 とはいっても、
こっちの居場所が定まらないことには電話もままならない。さりとて公衆
電話のかけ方もわからないし、それじゃーメチャ高だ。
すると例のオーナーが、千三百円ほどで一時間半もしゃべれるテレフォン
カードがあるという。それならば料金先払いなので、ペンションの電話を
いくら使ってもいいと言ってくれた。早速デパートで買ってみると、確かに
信じられないほど安い。世界中使える上、ヨーロッパ同士なら三時間も話せ
るらしい。
日本を発って一週間、ようやっと東京の娘たちとゆっくり話せた。 家の
整理も売買契約も全部終わり、最後にピカピカに掃除して先方に明け渡した
ら、買い主は感激して涙を流したという。 胸にジーンと来た! ホントに
お疲れさま!! 何もかもまかせて出てきちゃって申し訳ない。
できるなら電話よりインターネットを何とかしなきゃいけないけど、まだ
何一つ情報がつかめないことを告げて、とりあえず電話を切ったのだった。
そうなんだ、せっかく持ってきたノートパソコンで彼らにいろんな情報を
送りたい。日本じゃすでに始まっている携帯電話とつなぐ方法もあたって
みたが、誰一人知りゃしない。 その後やたら重くて使いづらい携帯電話を
買わされたことからすると、スペインはかなり遅れているのか、それとも
こっちが無知なだけなのか・・・。まあじっくり調べるしかないだろう!

なんたって銀行のキャッシュコーナーの使い方さえわからない。スペイン
語の他に英語の表示も出るけど、どっちにしたって知らない言葉ばかり。
こればかりは人のやり方を覗くわけにもいかないし、間違ったら大変と冷や
汗びっしょりで挑戦して、やっと何度目かに現金を手にした時には、思わず
「ヤッター!」と声が出てしまった!
言葉の壁はとてつもなく大きい!
語学学校に電話したくてもそう簡単に出来ない。どうせ向こうはペラペラ
まくし立てるに決まってる。スペイン人って、人の立場に立つってことを
知らないんじゃないのか? 仕方なく日本人留学生に食事をおごって通訳し
てもらったり、道端の大学生に頼んで電話してもらったこともあったっけ。
それよりなにより、長期滞在のためには語学学校に入らなければいけない
のか、そんな必要はないのか? ビザはどうしたら取れて、それはどんな
ビザなのか? 家(ピソ)はどうやって探したらいいのか、それはいくら位
なのか。 どうしたら契約できるのか?・・、
協力してくれると言ったケーコやラウルたちも忙しそう。 結局、何ひとつ
わからないまま時間だけが過ぎていく。 すでにバルセロナ到着から一ヶ月
近く、八月も半ばに入ってしまっていた。
(まだまだつづきますよ~っ!)
それから、
やはりメルマガの
“知ってびっくり!地中海の不思議の国・バルセローナ!”
も、
数々の写真とともに再構成しました。
どうぞこちらへ
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以下に2冊だけ拙著をご紹介します。よかったら読んでみてください!
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〈中高校生向けですが、‘哲学’についてもやさしく解説しています〉
◎ 『脳みそのほんとうの使い方《ビギナーズ編》』(日科技連出版社)
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