「ねえ、ぷんちゃん。それで・・・」
わたしの、話でもない話のとちゅう、ピピはわたしにもたれかかります。
すると、わたしの右側とピピの左側で、とてもとてもあたたかい熱が通います。
わたしは、まわしている右手で、ピピのすべすべしたくろい肩や、ふかふかのまっしろな胸をやさしくなでます。
すると、ピピはお座りしている脚を少しだけ開きます。
そこで、わたしはわたしの手が入りやすくなったピピのお腹の、座っている分たるんでぷにゃぷにゃにゆるんだところの、しわとしわの間の山の線を、指でつまびくようになでるのです。
このあと、わたしはピピを残してうちへ入り、二階の自分の部屋へあがると、今度は三時間ほどワープロと黙って話をして、また階下に降ります。
父も母も、すでに寝にいき、誰もいなくなった居間は冷えかけています。
そのストーブをもう一度つけて、テレビもつけます。
すると、画面に緑の柳の木が映り、漢詩紀行をやっています。
漢詩というのは、中国でつくられた詩のことで、はるか昔のそれらの詩の、中国の地を旅する番組なのです。
テレビは遠い風景を映し、わたしは勝手口のドアを開け、外へ降ります。
ピピはもう、とっくに起きていて、寝箱のふとんのなかでお座りしています。
「ぁーーー、んっ」
とてもとても高く細い、楽器のようにやさしい音の、ピピのあくびが出ます。
あくびの時、後ろへむいた耳が、あくびが終わると
ぴくん!
と元にもどります。
あら、ピピのなで肩から、ピンクの毛布がずり落ちていますよ。
「こさむちゃん、さむちー。ちゃんとかけて」
「こさむ」というのは、漢字で書くと「小さい寒」で、「さむちー」は、そんなたった今現在の、ピピの別名の別名なのです。
わたしは、ずり落ちた毛布をひっぱりあげます。
でも、ピピの、犬のちいさななで肩では、毛布はかけるそばから、つるつると滑り落ちてしまいます。
こんなことをしているうち、ピピの目はもうすっかり大きくなり、しっかりしたジャンプで寝箱を飛び出します。
「かったん!!」
寝箱がへこんで戻る音。
それからピピは、通路の隅まで歩いていって、「ふんふん」と地面のにおいをかぎます。
とたんに脚をひろげて、「ちーちー」おしっこをします。
そして
「かたたん!!」
また寝箱に入ると、ななめに座り、おしっこが出たばかりの小さいタマネギをきれいになめます。
それから次には
「どかっ」
と横たわり、自分のからだの上にわたしが毛布をかけるのを、すました顔で待っているのです。