「ピピー!!」
坂道の、ちょうど真ん中あたりで、わたしはピピを呼びました。
でも、なんの返事もありません。
台地の斜面を見あげると、それは巨大なくろい壁となり、わたしの視界をふさいでそびえていました。
わたしは突然、自分がそのくろい壁の底を這う、ちっぽけな虫に思えました。
そして、そのおおきな壁の上端からのぞくその先は、もっともっと果てしなく、くろい、くろい闇の夜空なのでした。
と
さらさらさらさらっ
くろい壁とは反対側の、下の旧道路を、ジョギングするらしい人影がよぎりました。
そして、そのあとすぐ
ちゃらちゃらちゃらっ
ちいさな爪音が、すばやくつづいたのです。
「ちびっ!!」
わたしはまた、呼びました。
しーん。
「ふいっ!!」
わたしは、へたくそな口笛を吹きました。
でも、あせっているので息が浅く、ぜんぜん遠くまで響かないのです。
「ピピッ!!」
いっしょうけんめい、耳をすまします。
しいん。