十一月十三日。わたしは、三日ぶりに家にいました。
その三日間、友人たちと伊豆旅行をしていたのです。
伊豆というのは、うちからずっとずっとずっと、ずーーっと東へ行った、東京の近くの半島です。
三日目の夜、わたしは駅からタクシーに乗って、家の裏の海岸道路で降りました。
そこから、急な土の階段を下り、家の横を流れる水路ぞいの小道を歩きました。
小道から、水路ごしに家を見あげると、勝手口通路の外壁に嵌(はま)ったすりガラスの窓がとんぼ模様を浮かび上がらせ、その向こうで、ピピの蚊よけの黄いろいランプがおおきな星のように光っています。
わたしの足音を聞きつけたのか、ピピが、ごそごそと寝床から出る気配がしました。
わたしは立ち止まり、水路ごしに、水音のようにささやきます。
「ちょんぷ。 ぴぴ・・」
すると、ピピはちゃかちゃかと音を立てて通路を歩き、外壁が途切れた先の低い塀に、前足をかけて立ちあがりました。
とはいえ、その「低い」塀でもピピよりはずっと高いので、塀の上に、やっとこさピピの鼻先がのぞいたのです。
塀の上端から
ちょこん
と出たくろい鼻が、それだけ、ちいさな生きもののように
ぴくぴく ぴくぴく ぴくぴく
上下左右、斜めに、元気に動きます。
わたしはにっこりして、また小道を歩きだし、旧道路側に回って、ようやく家の敷地に入りました。
そして真っ先に、ピピのところへ行ったのです。
なぜって、先月、四国旅行から帰ったわたしは、玄関から居間に入ったまま、そこでゆっくりしていました。
すると、勝手口のドアが
「バンバン!!バンバン!!」
外からひっぱたかれて震えだし
「ぎゃわん!!」
と、ピピの抗議の声がひびいたのです。