クリスの実の母親、アイリーンは生前、よくクリスのことを話していて、
いつかきっと引き取りたい、と強く願っていた、と。
八年前再婚した相手は小説家で、男の子がひとりいる、ということも。
その再婚相手もクリスを引き取ることに賛成で、一日も早く会いたがっている、
という。
「・・・こんなことになるってわかってたんなら、もっと早くにあんたを彼女の
もとへやればよかった。姉さんが三年前に死んでから、身内はあんたしかいなくて
私も寂しかったし。でも――これでお互い幸せを手にできるってもんよね。むこうは
金持ちだし、何一つ不自由なことはないと思う。心機一転、頑張ってよね」
そういわれると聞こえは良かったが、結局は厄介者だったのだと思うと、切なかった。
「毎月の仕送りがなかったら、とっくに向こうに引き渡してたけどね」
叔母のところに何度か電話が入って、そのたびクリスはここを出る日も近いのだと
実感した。
新しい父親は、クリスに電話口に出てほしいと頼んでいたようだが、彼女は
それを拒み続けた。小説の締め切りが近いので、会いに行けない、と彼は嘆いて
いたそうだ。
叔母が送ったクリスの写真に、アイリーンに生き写しだと言って――彼が涙ぐんでいた
ということも――まるで他人事のようにしか思えずにいた。
・・・私の気持ちはどこへ行ってしまったのだろう。ハイスクール卒業まで一緒に
暮らしてもいい、と言ってくれた約束は――いつ、どこで消えたのだろう。
これから幸せな生活を送るであろう彼らを前に、クリスは心の中に大きく口を開けた
その中に、沈んでいくような気がしてならなかった。
いつかきっと引き取りたい、と強く願っていた、と。
八年前再婚した相手は小説家で、男の子がひとりいる、ということも。
その再婚相手もクリスを引き取ることに賛成で、一日も早く会いたがっている、
という。
「・・・こんなことになるってわかってたんなら、もっと早くにあんたを彼女の
もとへやればよかった。姉さんが三年前に死んでから、身内はあんたしかいなくて
私も寂しかったし。でも――これでお互い幸せを手にできるってもんよね。むこうは
金持ちだし、何一つ不自由なことはないと思う。心機一転、頑張ってよね」
そういわれると聞こえは良かったが、結局は厄介者だったのだと思うと、切なかった。
「毎月の仕送りがなかったら、とっくに向こうに引き渡してたけどね」
叔母のところに何度か電話が入って、そのたびクリスはここを出る日も近いのだと
実感した。
新しい父親は、クリスに電話口に出てほしいと頼んでいたようだが、彼女は
それを拒み続けた。小説の締め切りが近いので、会いに行けない、と彼は嘆いて
いたそうだ。
叔母が送ったクリスの写真に、アイリーンに生き写しだと言って――彼が涙ぐんでいた
ということも――まるで他人事のようにしか思えずにいた。
・・・私の気持ちはどこへ行ってしまったのだろう。ハイスクール卒業まで一緒に
暮らしてもいい、と言ってくれた約束は――いつ、どこで消えたのだろう。
これから幸せな生活を送るであろう彼らを前に、クリスは心の中に大きく口を開けた
その中に、沈んでいくような気がしてならなかった。



