その頃、私は精神的にかなり参っていました。


仕事の多忙さに加え諸々のゴタゴタなどが重なり、精神的・物理的に責め立てられている感じで本当にクタクタでした。そんな時、偶然にも私はある素晴らしいJ-POPのグループと出会うことが出来ました。

■Negiccoの新作『愛は光』

巷で大評判のネギッコの『愛は光』MV。

最初、キリンジを聴いたことが無かった私はネギッコの作風としては意外な感じがして正直戸惑ったのですが、聴き込むほどに良さが体に沁み込む感じがあって、これは確かに名曲なのかも知れないと思い至るようになりました。

歌詞は「アイドルとファンの関係性を歌ったモノ」と良く言われます。しかし私はそれ程大層なモノではなく、もっと単純に「これはネギッコからファンへの感謝のメッセージなんだ」と思いました。これまでの14年間を振り返り、いつも支えてくれたファンに対する素直な気持ち。その気持ちが結果的に関係性を想起させたのかもしれませんが、その根底にあるのはネギッコのファンに対する「素直な想い」なんだと。キリンジの人はそのネギッコの気持ちを汲んで歌詞に込めたんじゃないのか。そう思わずにはいられませんでした。

そして、何よりまたMVの出来が素晴らしかった。まるで映画のワンシーンを思い起こさせるような素敵な映像で、擦れた映像は田舎の風景をよりノスタルジックに見せ、とても魅力的に映し出していました。



MVではネギッコは自転車に乗って楽しそうに田舎道を走ります。満面の笑みで楽しそうに走ります。

実は私は、この自転車で走っているシーンこそがこれまで14年間ネギッコが活動して(=走って)きた時代の比喩のように思えて仕方ありませんでした。手紙はそのものずばりメッセージでしょう。だからネギッコは自転車で走った先にある小さなポストにそのメッセージを投函する。

14年間支えてくれたファンへのメッセージを淡々とメロディーに乗せて、14年間にも渡る苦楽を視聴者に思い起こさせながら、映像ではこれまでの苦労を全く感じさせないネギッコの笑顔を散りばめる。真剣な表情は手紙を書いているシーンのみです。その健気さがMVではとても良く表現できていたように思います。だから視聴者はこのMVを見ると14年間という長い年月に想いを馳せ、それでも元気に立ち振る舞うネギッコの姿を目にして涙してしまうのではないか、と。

そしてこの『愛は光』を聴いた時に胸に込みあげてくる感情が、あるグループの音楽を聴いた時ととても良く似ているように思いました。それが表題で紹介したCECILというJ-POPグループの音楽でした。

■CECILとは

 



90年代に活躍したThe REDSのソングライターであった大平太一氏がプロデュースした女の子4人のJ-POPプロジェクトです。

メンバーはVoのゆきちさん、作詞のばたやんさん、アートワークのカンバラクニエさん、ヨシエさん姉妹の4人です。元々は大平氏や他の楽器演奏やレコーディング担当者もメンバーとしてクレジットされていましたが、アルバム『CINEMA SCOPE』以降はスタッフとしてクレジットされています。バンドではないというのと、決してアイドル的な立ち位置でもないという事で非常に説明は難しいです。

作編曲等のサウンドディレクションは全て大平氏が担当し、歌は全てゆきちさんが歌っています。作詞はVOのゆきちさんとばたやんさんで担当していますが、~中には共作というのもありますが~ほとんど曲により割り振っています。そしてジャケットなどのアートワークはカンバラ姉妹が担当、という完全なる分業体制です。なのでプロジェクトという表現が一番シックリくるのではないかと個人的には思っています。




2000年6月にカセットテープで作品を2本リリースした後、毎年CDで作品をリリースしていました。

数枚ミニアルバムを連続してリリースした後、フルアルバムをリリース。その中のシングル曲『super“shomin”car』が映画『下妻物語』で挿入歌に採用されました。その時は何となく、その後のブレイクを予感させたりしました。

しかし、しかしです。以降は特に話題もなく、ミニアルバムを一枚リリースした後に活動を休止してしまいます。

■CECILとの出会い

時は2005年7月16日まで遡ります。

私はその日レコ屋を数件巡ったものの、掘り出し物はおろか買いたいレコにも巡り合わずに落胆していました。正にトホホな気分で帰宅途中にあった本屋にブラリ立ち寄りました。別に用事があった訳ではありません。ただ、何となく気が向いたから寄ったのです。

本屋に入ると、入り口近くのレジ前に大きなワゴンが2つデデ~ンと置いてありました。近づくと、大きなワゴンの中には沢山CDが積まれていて、値札には全て半額シールが貼ってあります。私はラッキー!と思い内心ガッツポーズしながら、ワゴンの端から一枚一枚CDを手に取り物色し始めました。

しばらくして、どこか見覚えのあるCDを引き抜きました。はて、これは何だっけか・・・。しばらく考え、当時よく見ていた音楽ブログで管理人さんに絶賛されていたCDだったことを思い出しました。

手に取ったCDは2枚。CECILの『CINEMA SCOPE』と『夏時計 -2002 ENCORE EDITION-』でした。私は「あぁ、これがあのブログで紹介されていたCECILか・・・」と。他に購入したいCDも無かったので、この2枚のCDだけ購入することに決めました。まあ、戦利品が他に何もないよりかはイイだろう、という軽い気持ちみたいなもんでした。



その頃好きだったその音楽サイト(その頃はまだブログではありませんでした)は女性VOモノのみを取り扱った珍しいタイプのものでした。そのサイトの管理人さんは少し癖のある感じだったので好き嫌いがハッキリ分かれる印象でしたが、私は音楽の趣向が割と似ていたのと、取り上げている音楽が私の知らない面白そうなモノばかりで、また、文章も上手だったので楽しんで読んでいました。割と熱心な読者だったと思います。

そこで絶賛されていたCDが50パーセントオフでセールされていたのです。そりゃ買っちゃうでしょう、と。

ちなみに、その音楽サイトはとっくの昔に閉鎖されています。内容が濃かったので、更新されなくても残っていれば資料的な意味合いとしてもとても意義のあるサイトだったと思いましたが、今は全てが消去されています。惜しい音楽サイトを無くしたものです。

■CECILを最初に聴いた印象

最初にCECILの楽曲を聴いた時の感覚は今もハッキリ覚えています。
 

 

私は『夏時計 -2002 ENCORE EDITION-』を最初に聴いたのですが、オープニングの夏時計のギターコードが部屋に鳴り響いた瞬間、部屋中の蒸し暑い淀んだ空気が一気に澄んでいくような、そんな錯覚にとらわれました。変な話ですが、私は行っていた手作業を止め、目はCDプレイヤーへと釘付けになっていました。

 

CECILの楽曲はどちらかと言えばゴージャスな作りで、暗い雰囲気は微塵も感じさせない作風でした。しかし、何故かヒンヤりとしたクールさをまき散らしている印象を受けました。カッチリと作りこまれたバックトラックにゆきちさんの幼い舌足らずなウィスパーヴォイスが乗り、あの独特なCECILの音世界が完成していると思いました。



誰に何と言われようと自分たちの信じる道を只ひたすら歩いていく勇気。覚悟を思わせる凛とした佇まい。見かけからは想像できない、静かに落ち着いた中から漂う気迫。そして嫌なことや辛いことがあっても、その全てを包み込んでしまう笑顔。

これ、どこかのグループに似ていると思いませんか?。私は楽曲の節々から漂うその凛としたオーラに圧倒されていました。

■そしてCECILに夢中

それからはレコ屋へ行くたびにCECILのCDを探しました。

既に2005年の7月を過ぎていたので廃盤となっているCDもあり、集めるのに大変苦労しました。もちろん全てを集めることはできませんでしたが、今所有しているCDだけでも新品で買えたのは運が良かったなあ、と思います。

当時、オフィシャルサイトもあったので良く覗いていました。日記的なもの(しつこいようですがブログではありません)もあって、さすがに女性らしい目の付け所と言いますか、表現など読んでいてホッコリさせられました。短い文章の中にもメンバーの人となり等が見えてくるようで、とても新鮮でした、

特に記憶に残っている記事があります。

ゆきちさんの顔(だっけ?)に粉瘤が出来たという話です。病院へ行くと医師に粉瘤と言われて「ふんりゅう?(ハテ?」という話から手術にまで話が及んだ時の恐怖感など、読んでいてとても面白くその可愛らしさにクスッとして、癒しってこういうことを言うんだろうな、と当時思ったりしました。



ヴォーカルのゆきちさんの書く歌詞は独特で感覚的な語彙が多く、文章を右脳メインで紡いでいるような印象を強く受けました。作詞担当のばたやんさんはもっとしっかり文学的に振れている印象で、感覚よりも文章の組み立て方を計算して作りこんでいる印象を受けました。

二人の書く歌詞はそれぞれ個性があってそのどちらも素晴らしいものでした。差異と言うか、そのギャップがそれぞれの歌詞をより一層魅力的に映し出しているように感じました。

ゆきちさんの歌詞がメロディーに乗ると、映画のワンシーンのようにその情景が頭に浮かびます。対して、ばたやんさんの歌詞は映画そのものでした。楽曲を聴いているとストーリーが頭に浮かんでくるのです。

この違いは鮮烈で、私は楽曲(=サウンド)の魅力以上に歌詞の持つ魅力にやられていました。両者ともに女の子っぽいファンタジーを基調とした歌詞でしたが、そこに身近な出来事を織り込んだりして(多分)、だからこそ曖昧且つ抽象的な表現なのに受け手側にはきちんとしたイメージが届くのだろう、と思ったりしました。



あと、やはりCECILはゆきちさんのVOです。このVOが素晴らしすぎました。

ウイスパー系の女性VOは元々好きでしたが、これほどまでに聞き惚れた女性VOはありません。ありきたりに聞こえなくもないのですが、聴き比べるとやはり違いを感じます。とても感覚的なものですから、好きじゃない人には違いが分からないかも知れません。しかし、私にとっては唯一無二のVOでした。数々のウィスパー系VOを聴いて辿り着いた至宝。そう断言してもいいくらい、そう言えるくらいに、素晴らしいVOだったと今でも思います。

楽曲は緻密だしセンスも良い。おまけにゆきちさんの素敵なウィスパーボイスがメロディーを奏でる。一見(一聴?)すると只の『カワイイ系音楽』で括られてしまいそうです。しかし、カワイイだけで済む音楽ではないのです。その背景にある深み、表面に決して現れることのない彼女らの確固たる強い思い。その思いには誰もが心を動かされるはずです。

CECILにゆきちさん以外のVOが乗っていたとしたら、ここまでの評価にはつながらなかっただろうな、と思います。

ばたやんさんがゆきちさんのVOを初めて聴いた際、「絶対この人をVOで誘おう」とプロデューサーの大平氏と話した、という噂(?)も聞きました。ただの噂かも知れませんが、このゆきちさんのVOを聞けば誰だって納得するはずです。ゆきちさんのVOはそれ程までに素晴らしいものなのです。

■CECILの活動休止

2005年の夏に私はCECILと出会い、CECILに夢中になりました。その時、CECILの活動は既に5年経過していました。古いと言えば古いですが、その間に発表された作品はとても少なく決して乗り遅れたという感じでもありませんでした。

 

リリースされた主要なCDは大体手に入れることが出来ましたし、今からだって十分に間に合う。CECILのこれからの歴史をリアルタイムで目撃していける。本当にそう思っていました。

私は新しいアルバムのリリースを心待ちにしていたのです。



2006年12月。遂に待望のアナウンスがオフィシャルサイトにされました。

「現在ニューアルバムをレコーディング中。試聴用のダイジェストを年末まで公開します」とプロデューサーでありソングライターでもあった大平氏がオフィシャルサイトの日記で発表しました。天にも昇るとは正にこのことです。私の気持ちは沸き立ちました。

そして公開されたダイジェスト版がまた素晴らしい出来でした。「これがもうすぐ正式に発表される・・・」。もう、いてもたってもいられません。早く、早く、早く聴きたい。そして、もうすぐに新曲を聴くことが出来る。私のワクワク感は留まることがありませんでした。

 



しかし、いつまでたってもニューアルバム発売のアナウンスは行われません。

「マスターテープを誤って消去してしまいリリースが中止になった」という噂がネットを駆け巡りました。本当のところはわかりません。でも、そのままCECILは活動を休止してしまいました。

■CECILの活動再開を望むべきか?

CECILの音楽の瑞々しさは楽曲の出来もさることながら、ゆきちさんのVOによるところが大きかったと思います。

ゆきちさんの年齢まで把握していませんが、CECILの音楽はゆきちさんの年齢が若く、まだ人として幼い(=声が若い、とか)という背景があったからこそ成立しえた世界感だったと思います。であれば、今から活動再開したとしても同じ世界観を説得力を持って改めて聴かせる事が出来るのだろうか。と思います。むしろ違和感に苛まれる心配の方が大きい。そんなことCECILファンにとって正に悪夢でしかありません。そんな事にでもなれば最悪の事態です。

だったら、もう活動再開は望まないほうがいいかも知れない、と思います。あの頃の素敵な思い出のひとつとして、このまま歴史の中に埋もれてしまう方がCECILのファンにとって、またCECILの音楽にとっても幸せなことなのかも知れない、と。

 

ファン心理とはヤッカイなものですね。ただ、それ程までにCECILの音楽は掛け替えのない唯一無二のものでした。

あの限られた時期にだけ成立しえた特別な音楽。ゆきちさんもばたやんさんもソングライターの大平さんも、その才能があの時期に出会い結束したからこそ成し遂げられた奇跡のような音楽。そう思わざる得ない何かオーラのようなものを感じます。正に『魔法のかかった』音楽です。商業的にはそこまで恵まれた結果を残せたとは言えませんが、音楽の神様はいつもCECILの傍にいたと思います。

私はCECILの音楽と出会えて本当に、本当によかった。

■リリースされたCDの紹介

今では入手も困難となってしまいましたが、手元にあるCDを紹介します。ネットにアップされている音源もあるので、気になった方は是非試聴してみてください。

CDの収録曲は割と重複している方だと思うので、CDを探される場合は注意が必要です。

 ● 『Cheek』 ミニアルバム 2001年10月26日発売


   4曲収録のミニアルバムです。
   2曲目)10月のメトロは『CINEMA SCOPE』収録曲と同じです。


 ● 『夏時計 -2002 ENCORE EDITION-』 ミニアルバム 2002年7月19日発売

   6曲収録ミニアルバムです。
   2曲目)シトロエン、3曲目)フルスロットル、4曲目)モノレールは『CINEMA SCOPE』

   収録曲と同じです。

   1曲目の『夏時計』にしびれました。歌詞はたったの5行。ほとんどがインステュルメン

   タル部分ですが、短いながらも歌の持つパワーには引き込まれます。意味のないよう

   に聞こえる歌詞ですが、多分意味はあります。私には伝わりましたから(謎)。

 ● 『CINEMA SCOPE』 フルアルバム 2003年2月13日発売


   11曲収録フルアルバムです。

   唯一のフルアルバムで、最高傑作と言っていいかと思います。『下妻物語』の挿入歌

   となった『super“shomin”car』収録。CECILを知るには何はともあれこのアルバムで

   しょう。

 ● 『super“shomin”car』 シングル 2003年4月23日発売


   4曲収録シングルです。
   1曲目)super“shomin”car、4曲目)風樹の街、は『CINEMA SCOPE』収録曲と同じです。

   2曲目)lu di-di can -つばさのうた-、は『Cheek』収録曲と同じです。

   『下妻物語』の挿入歌となった『super“shomin”car』収録。他のCDに未収の曲は『あと5

   分だけ』ですが、この一曲を聴くためだけでも購入する意義があるCDです。名曲と言っ

   ていいでしょう。そして、ばたやんさんの歌詞がかわいくて泣かせます。

   『lu di-di can -つばさのうた-』は元々はThe REDSの楽曲で、The REDSのアルバ

   ムにも同タイトル曲が収録されています。但し、印象は大分異なります。The REDS版

   はVOが男性でアレンジはもっとバンドバンドしています。とても格好良いです。
 
  ● 『タイガー・リリィ』 ミニアルバム 2004年3月24日発売


   4曲収録のミニアルバムです。

   このCDだけ重複曲はありません。全て新曲です。その中でも『うらら』は傑作です。

   歌詞は聴いている人の胸を鷲掴みにします。このようなポップソングを創作できる人

   が日本人にいることに私は正直驚きました。



2006年に告知してリリースされなかった楽曲の一部はネットにアップされていますので誰でも聴く事ができます。


 

 

曲は『フルーツバスケット』です。以前は『夜間飛行』という曲もアップされていましたが、今は削除されているようです。と『夜間飛行』です。この2曲も大変素晴らしい出来ですので、興味のある方は是非試聴してみてください。

CECILの活動休止から11年。早いもんだなあ、としみじみ思います。文中にも書きましたが、もう再活動は期待していません。私の中ではCECILはキラキラ輝いていた記憶の中のひとつの思い出です。

でも、今だったらどのような音楽に結実するのか?と、全く気にならない訳でもありません。見てみたいような、見たくないような。ファン心理とは本当にヤッカイなもんですね。(´・ω・`)



ゆきちさんはCECIL以外でも活動されていました。

 



有名なのがSEGAのゲーム音楽でもあった『セラニポージ』(上記写真のCDです)と『チャッピー』ですが、『セラニポージ』はアルバム一枚のほとんどの曲をゆきちさん(クレジットではゆき名義)が歌っていて中々聴きどころの多い作品です。

ただ、曲調は全く異なりますので聴いた印象はCECILとは大分違います。やっぱりCECILの方が私は好きです。何倍も魅力的に聴こえます。

ゆきちさんは今はもうVO活動されてないのでしょうか?。CECILじゃなくても良いのであの歌声を聴いてみたいです。



所属していたBERRY RECORDSのHPも消えてしまい、今は活動していないようですし、色々と気にかかることばかりです。元気に過ごしていてくれれば良いのですが。CECILの活動休止後に皆さんどのような活動をされていたのか。それだけでも分かれば少し安心できますが・・・。

 

 

フリッパーズギターが解散して14年でCECILに出合い、CECILが活動休止して9年後にネギッコと出会う。世の中には星の数ほど音楽があふれていますが、特別な音楽はやっぱり特別なんですね。神様も簡単には出会わせてくれないようです。

 

今はネギッコがいつまでも活動を続けてくれる事を祈るばかりです。

 

ここまでお読み下さって、ありがとうございました。

 

(終わり)