倒れたまま、走る——SSTR直前の出来事
ガシャン! 振動と共に大きな音。 ——胸騒ぎがする。 嫌な予感は、だいたい当たる。 階段を駆け下りた。 玄関の外で、年老いた両親が騒いでいる。 ――見たくない。 だが…そこには 無残に倒れたバイクがあった。 オヤジは、自分の車の傷を見ていた。 ――バイクに車が突っ込んだか。 で、逆切れ…ね。 …。 バイクを起こす。 曲がったハンドルを触る。 壊れたパーツを拾う。 誰でもミスはある。 けどさ…。 ……先に、言うことあるんじゃね? …。 ふと、気づく。 今月末に予定の、SSTR。 出走できるのか? バイク屋に電話する。 答えは「見てみないと分からない」だ。 しかも、GW明けは予約で埋まっていた。 とれた予約は出走の4日前。 これで間に合うのか。 … 傷ついたバイク。 愛おしくタンクを触る。 怒っていたはずだ。 なのに、目の奥から、何かが込み上げてきた。 …あれから1日経過…。 最悪、修理が間に合わない場合、どうする? いくつかの選択がある。 1つめ 「レンタルバイク」 SSTR出走の望みは叶う。 ただし、高い。 何より、時間がない。 かなり窮屈なスケジュールだ。 … 2つめ 3連休をおとなしく過ごす。 金銭的なダメージは最小。 だが、この過ごし方でいいのか? これは「なし」。 … 3つめ クルマでSSTRっぽいことを楽しむ。 宿、3連休、ツーリング計画 全てを活かせる。 ありと言えば「あり」だが… 参加者のバイクを見て、オレは何を思う? … 4つめ いっそのこと、3連休は九州へ。 現地でレンタルバイク。 阿蘇方面にツーリングだ。 ――これは、おおいに「あり」。 ワクワクする。 バイク壊れて、かえって、よい思い出になる予感。 …あれから2日経過… 再び、それぞれの選択肢を検討した。 すると、答えが違っていた。 「なし」とした判断は「あり」に、 ワクワクした提案は、そうでもない。 悲観的になり過ぎた。修理は、間に合う。 代案は、ここまでだ。 … 倒れた音は、記憶に残ったまま。バイクも、壊れたまま。 事実は変わらん。だが、それがどうした。 全部直す必要はない。公道を走れればいい。 オレは、相棒と走る。 目指すは、SSTR完走だ。 傷ついた相棒が、少し、頼もしく見えた。