エニアグラム及び類型論に関心のある全ての人々にこの記事を捧げる。


はじめに

以前に『Ame Ricaの心理機能の哲学的解釈の全て』を発表した際、予想以上の反響があったため今回はエニアグラムの哲学的解釈について取り扱う。

ちょうど昨年のこの時期、僕がエニアグラムを初めて知った時は、MBTIとは大きく異なる、論理体系のない宗教じみたものを感じた。それから長らくエニアグラムを本格的に学んだり探究したりする気は全くと言って良いほど起こらなかった。エニアグラムをMBTIのように論理体系で理解することは不可能と思えたからだ。しばしば魔法陣と揶揄されるあの円形の図形と、個々が独立した特徴を持つように見える九つのタイプから何を学ぶのだね?と、僕にエニアグラムを勧めてきた人には毎度言い返したくなるほどだった。しかしこれもやはり僕の傲慢さでしかなかったと最近、バイオ氏と希望氏は気付かせてくれた。
僕がバイオ氏の心理機能に対する奥深い洞察の面白さに気が付いた頃、彼と希望氏は既に彼らの独自のエニアグラム理論を完成させていた。これはまるで日本人が狩猟採集生活をしていた頃に、地中海のエジプト人やギリシャ人が既に高度な数学や天文学を持っていたというほどの、彼らとの差を感じさせられた。無論、彼らの哲学や心理学に対する知的好奇心は遥かに強く、彼らの住む世界観が彼らの探究にさらに拍車をかけたものと思う。
もちろん彼らの理論はあくまで彼らの独自解釈であるため、エニアグラムを表層的な、一般的な解釈に留めておきたいと思う方にはこの記事はおすすめではないかもしれない。しかし彼らの哲学やその他人間の行動原理に関する知識の豊かさや洞察の深さが生むこの理論及び解釈から、我々が学ぶことは多いだろう。
僕がこの記事の執筆およびこれに関する一連の活動においてやりたいことそして望むことは、彼らの知見や考察を自分なりに再考し、まとめた上でエニアグラム及び類型論に関心のあるより多くの方々に分かりやすく解説し、理解を深め、さらなる関心、探究心を持って頂くことである。



序章 エニアグラムの哲学的体系化

bioshok氏がエニアグラムという複雑な理論を何か統一的な基準を設けて体系化するにあたっては、彼の長年に渡る哲学的知見の蓄積が非常に役に立ったようだ。彼は印象論に近いMBTIやエニアグラムにおいて、各タイプ及び心理機能に絶対的な必要条件を見出そうと試みる。これを達成するには、結果論的な科学のみならず、過程論とでも言うべき哲学的な知見、またその理解が必要となるだろう。
僕が彼が書いたエニアグラム理論を読んで驚いたことは、理論というよりは神話に近いものを感じたことだ。しかしそれは非常に深い哲学的知見により成り立っている、いわば哲学的神話だった。僕はこの記事の終わりのほうで、それをできるだけわかりやすく書こうと思う。



第1章 ラカンとフロイト理論の拝借

bioshok氏はまず、エニアグラムが9つのタイプから成ることに着目しこれを三元論的に扱おうとしたようだ。
恐らく彼は次のように構想した。3種類の世界観において、3種類の機能があり、これがエニアグラムの9つのタイプを成し、それぞれ世界への態度を示している。

彼は3種類の世界観を分類及び定義する際、20世紀のフランスの精神分析家であるラカンが構想した想像界、象徴界、現実界の理論に着目したようだ。以下、3つの界の説明である。

現実界 
人間となった生体にはそれとして捉えることのできない領域であり、言語による分節もなく、想像的機能による心像もない、世界と生体の単なる連続性によってしか表象できない領域。

想像界
人間の身体機能が未成熟で、大脳皮質を中心とした脳、神経系が不均整に発達しているという誕生時における特殊性に引き続いて、知覚される自己像(鏡像)に異常な興味を持つという事態の裏に想定される領域。ナルシズムの働く領域であり、自己像に向ける性愛的関心と攻撃性によって自我の形成にあずかる。

象徴界
何よりも人間の言語活動によって特徴づけられる領域であり、無意識の構造が直接に関わりを持つ。同時に象徴体系の総体と見られるような文化の秩序を含み、禁止や法が機能する領域。

(ブリタニカ百科事典より)

ラカンが提唱した上記の3つの界は、現実界、想像界、象徴界と進むに連れて領域が秩序化していくことが見て取れる。bioshok氏はこれと、フロイトの幼少期における発達の三段階にも着目した。以下、フロイトが提唱した3つの段階である。

口唇期
生後1歳半くらいまでの小児性欲の発育の第一段階。乳首を吸うなどの口唇による快感を感受する時期。

肛門期
口唇期に続く小児性欲の発達段階(4歳頃まで)。排泄などの肛門の刺激に快感をもつ時期。

男根期
小児性欲の発達段階(4〜5歳)。性器で性感を覚えるが、まだ性の対象を求めるに至らない時期。

(広辞苑より)

ラカンが提唱した3つの界は、フロイトが提唱した3つの発達段階における世界観と合いそうだ。

言語による文節もなく、世界と生体の単なる連続性によってしか表象できないという現実界は、口唇期の、生まれたての赤子が見る世界と似ているだろう。赤子は生まれた時、目は見えるのだが対象物を対象物として認識できないという。そこにはまだ対象物という認識がなく、区切りのない連続性の世界が広がっている。

自己像に向ける性愛的関心と攻撃性によって自我の形成にあずかるという想像界と、肛門期の幼児が見る世界は似ているかもしれない。母親や周囲の人間との対話を通して自我を意識し、自我像が形成されていく。

人間の言語活動によって文化の秩序が成り立つ象徴界と、男根期の幼児が見る世界は似ているかもしれない。言語活動の定着により、社会秩序を意識する。

以上の仮説により、3つの界が設けられた。

現実界(口唇期)、想像界(肛門期)、象徴界(男根期)である。

本章の以下は、以上を踏まえた上での僕の考察および解説が大部分である。

現実界から想像界、象徴界と進むに連れて、構造のない世界が構造化されていき秩序が整っていく。この秩序の根底にあるものは「知ること」、そしてやはりその存在を「信じること」である。

皆さんも幼い頃に経験があるかもしれないが、幼児同士で遊んでいる時に一方がおもちゃを貸してと頼むと、拒絶する場合がある。これはまだ、そのおもちゃを持つ幼児が「所有」という概念を知らない可能性がある。
我々は今、友人から一時的に持ち物を貸してくれと頼まれれば、よほどのことがない限り貸すことはできると思う。しかしそれは、我々が「所有」という概念を知っていて、かつそれを信じているからに他ならない。科学的に見れば、所有という概念は単なる人間の信念に他ならない。つまり所有というのは単なる虚構である。今我々の手元にあるスマートフォン及びその他デバイスを、我々が所有しているということは人間の信念によってしか成り立たない。書類に記載されていようが、文字というインク及び発光によって示されている何かの図形が意味を持つというのも根を掘れば我々の信念に他ならない。科学的には持ち物などという概念は虚構以上のなにものでもなく、我々の手元にあるデバイスやその他物品はただそこに物理的に存在するのみである。
名著「サピエンス全史」や「七つの習慣」を読まれたことがある方は、この手の話はピンと来るだろう。我々人間の社会というのは虚構により成り立っている。我々は虚構を信じることで、人間社会においてより便利に活動することができる。「所有」という二人以上の人間がいる場合に成り立つ概念から、「学校組織」、「会社組織」、そして「市」、「国家」まで全ては物理的実体のない虚構である。
なので真の「現実」を見ているのは、口唇期の赤子と言えるだろう。虚構がまだない、まさしく「現実界」である。赤子及び幼児は、家族という人間社会において生活することで繰り返し登場するものに対する認識を深めていき、想像界、象徴界と虚構がより深く成立していく。
と言いたいところだが、フロイトの言葉を調べていると面白い用語が見つかった。「口唇性格」、「肛門性格」である。

口唇性格
口唇期の欲求(リビドー)が適切に処理されなかった人の性格。依存性、受動性がその特徴とされる。

肛門性格
肛門期の欲求(リビドー)が適切に処理されなかった人の性格。規則的、倹約、強情などがその特徴とされる。

(広辞苑より)

「男根性格」に当たるものは見つからなかったが、この流れでいくと男根期のリビドーが適切に処理されなかった人の性格、となりそうだ。
こう見ていくとどの界を強く意識するかは、フロイト理論においては、幼児期の発達段階においてリビドーを適切に処理できたかどうかに関わってくるという仮説が浮上してくる。
先程述べた通り、秩序化及び虚構への信頼には「知ること」と「信じること」が必要と思われる。幼児期の発達段階において、リビドーが満たせていないと満足な状態及び次の段階の界を「知ること」そして「信じること」は難しくなるだろう。よってここで秩序化及び虚構への深い信頼が停滞すると予測できる。


以下、各界の説明のまとめである。

現実界(口唇期)
人間の信念により生み出される構造及び虚構のほぼない世界であり、連続性により成る真の現実世界である。
仮説:口唇期のリビドーの処理不足によりこの界に停滞する。

想像界(肛門期)
他者との関わりを通じて自己像を意識する、自己と他者の世界である。
仮説:肛門期のリビドーの処理不足によりこの界に停滞する。

象徴界(男根期)
言語活動を通じて文化的秩序が生まれる、社会的象徴体系の世界である。
仮説:男根期のリビドーの処理不足によりこの界に停滞する。

しかし、男根期のリビドーが適切に処理された場合は進む次の界がないため、この界においては仮説は「肛門期のリビドーが処理された場合、この界に至る。」としておくべきだろう。







第2章 本能のサブタイプとの理論統合



bioshok氏は前章で説明した3つの各界において働く3つの機能を構想した。「制圧機能」、「保持機能」、「受容機能」である。

制圧機能は、その界において他者を制圧することが根源的欲求であり、制圧できないことが根源的恐怖である。

保持機能は、その界において自己を保持することが根源的欲求であり、他者から制圧され自己を保持できないことが根源的恐怖である。

受容機能は、その界全体を受容することが根源的欲求であり、受容できないことつまり界全体の崩壊が根源的恐怖である。受容機能に関しては根源的欲求や恐怖に、統合と退行が絡んでくるがこれについては後の章で説明する。

以下では、各界における各機能、つまり各タイプを説明する。

現実界(口唇期)
構造のないカオスな世界。世界というのは外界であって、自己は構造を持つと感じている。

現実界 制圧機能(タイプ5)
構造を持たないカオスな他者及び世界に、意味付けをすることで構造を持たせ制圧することが根源的欲求である。また、それをできないことが根源的恐怖である。

現実界 保持機能(タイプ4)
構造を持たないカオスな他者及び世界つまり未知のものに、自己を制圧されるつまり個性を潰されることが根源的恐怖である。個性つまり自己を保持することが根源的欲求と捉えられる。

現実界 受容機能(タイプ9)
構造を持たないカオスな世界である現実界全体を受容することが根源的欲求であり、カオスな世界全体が強固に構造化されることで現実界が崩壊すること、つまり最も秩序的な象徴界への移行が根源的恐怖である。


想像界(肛門期)
自己と他者の認識により自己像を意識する世界。ここで意識されるのは特に自己像に付される勝ち負けや優劣である。

想像界 制圧機能(タイプ8)
自己と他者の認識により生じた自己像に、他者を制圧、支配することによって勝者であると刻むことが根源的欲求であり、それを達成できないことが根源的恐怖である。

想像界 保持機能(タイプ7)
自己と他者の認識により生じた自己像に、他者から制圧されることで敗者や勝者と刻み込まれることが根源的恐怖である。自己像を保持することが根源的欲求であるため、勝敗や優劣を刻み込まれることを拒む。

想像界 受容機能(タイプ3)
自己と他者の認識により生じる自己像を意識する想像界全体を受容することが根源的欲求であり、カオス化により準構造的な自己像及び想像界が崩壊すること、つまり現実界への移行が根源的恐怖である。


象徴界(男根期)
言語活動により文化的秩序を意識する世界。社会や自己におけるルール及び規範が焦点である。

象徴界 制圧機能(タイプ2)
文化的秩序及び規範を教示することで他者を制圧することが根源的欲求であり、他者がその規範に従わないつまり教示する規範を守らせられないことが根源的恐怖である。

象徴界 保持機能(タイプ1)
他者の異色な規範及び倫理によって自己の規範及び倫理がおかされることが根源的恐怖である。自己の既存の規範及び倫理を保持することが根源的欲求である。

象徴界 受容機能(タイプ6)
文化的秩序及び規範により成る象徴界全体を受容することが根源的欲求であり、この確固たる秩序つまり象徴界が崩壊し、戦乱つまり場当たり的な勝ち負け優劣が蔓延る想像界への移行が根源的恐怖である。


以上が各タイプの本質的説明になるが、希望氏こと枕でできた煙突氏は、本能のサブタイプと制圧、保持、受容の3つの機能が深く関係していることに気が付いたようだ。

本能のサブタイプは「sx」、「sp」、「so」の3つのタイプを欲求の強い順に並べることで表記されるものだが、これがそれぞれ「制圧機能」、「保持機能」、「受容機能」と一致するというのが彼の見解である。僕もこれには納得したし、以下に僕なりの解釈で説明してみた。

Sexual(sx)=制圧機能
他者の不可侵領域を侵したい欲求。そうすることで、自らの秩序を建設し支配者となれると感じる。他者を制圧することで、能動的に自身固有の社会秩序を築こうとする。

Self-preservative(sp)=保持機能
他者に自己の不可侵領域を侵されたくない欲求。社会秩序の建設を進める支配者に、自身の領域を侵されたくない。自身の領域を守ることで、自身を保てると感じる。

Social(so)=受容機能
他者に自己の本来の不可侵領域を侵されたい欲求。そうされることで社会秩序に組み込まれ、社会に適応できていると感じる。社会及びその支配者に対して受動的。

受容機能は界全体を受容するため、当然その界における制圧機能や保持機能も受容する。受容機能にとっては、その界の制圧機能に侵されることで、その界全体を受容できることになるため、この上ない幸せであるだろう。
この新たな説の浮上により、次章の相性論が誕生した。




第3章 エニアグラムタイプの相性



結論から言えば、他者の不可侵領域を侵したい制圧機能(sx)は、自己の本来の不可侵領域を侵されたい受容機能(so)と相性が良いと言って差し支えないだろう。
そして自己の不可侵領域を侵されたくない保持機能(sp)は、同じ欲求を持つ保持機能同士で理解し合うことができるため、相性が良いと考えられる。
この相性論を踏まえて、以下で各タイプを簡単にもう一度説明する。ちなみにこの相性論も希望氏が提唱していたものである。彼の動物の性行動に関する話の数々は非常に本質をついていて、なおかつ面白みがある。

現実界(口唇期)
口唇制圧sx=T5
定義したい、意味付けしたい、他者や世界にレッテルを貼りたい。
定義されたそうなT9を狙う。

口唇保持sp=T4
定義されたくない、意味付けされたくない、自己の個性を保ちたい、決めつけられたくない。
個性の保持を望むT4と理解し合う。

口唇受容so=T9
定義されたい、意味付けされたい、自分が何なのか教えて欲しい。
話を聞くことで、定義してくれそうなT5を誘う。

想像界(肛門期)
肛門制圧sx=T8
支配したい、優越したい、他者を牛耳りたい。
何かと目につくT3を狙う。

肛門保持sp=T7
支配されたくない、優越されたくない、勝負事に巻き込まれずに気楽に過ごしたい。
気楽に過ごしたいT7同士で気が合う。

肛門受容so=T3
支配されたい、優越されたい、最終的には牛耳られたい。
見栄えを整えることで、支配してくれそうなT8を誘う。

象徴界(男根期)
男根制圧sx=T2
教示したい、お節介したい、人員を教育したい。
教育されたそうなT6を狙う。

男根保持sp=T1
教示されたくない、お節介されたくない、自分のルールは守りたい。
ともに自分の倫理観保持を望むT1と良い距離感を保てる。

男根受容so=T6
教示されたい、お節介されたい、社会的規範に馴染みたい。
話を聞くことで、教育してくれそうなT2を誘う。


ここまでは、界という空間における各タイプの欲求と恐怖、またそれによる相性を説明した。ではここに時間経過が加わるとどうなるだろうか。



第4章 統合と退行の正体


従来のエニア理論において、目指すべき姿が改善されることでタイプが変化することを「統合」、また、力量不足等を感じて目指すべき姿を諦めることでタイプが変化することを「退行」と言う。
bioshok氏によると、統合及び退行は時間変化だという。根源的欲求及び根源的恐怖が、精神分析学的に順当な方向に時間発展する方向を統合、その逆が退行であると規定している。

T5(現実界)の統合先はT8(想像界)である。そしてさらにT8の統合先はT2(象徴界)である。
この様に統合させていくと、
T5(現実界)→T8(想像界)→T2(象徴界)→T4(現実界)→T1(象徴界)→T7(想像界)→T5(現実界)
と一周する。
ここで疑問に思った読者は多いだろう。T5からT2までは、現実界→想像界→象徴界と、秩序化の方向に進むのに、T4(現実界)を経たあとのT1からT5までは、象徴界→想像界→現実界と秩序化とは逆の方向に進むではないか、と。
bioshok氏によると、現実界はあまりにカオス(混沌)であるため、他の界が交わるところで非対称性が生まれるそうだ。
ここを経ると秩序化の方向を進んでいた統合は非秩序化の方向に逆転するようだ。

これは退行にも同じく言えることで、退行は最初
T5(現実界)→T7(想像界)→T1(象徴界)と非秩序化の方向に進み、T4(現実界)を経たあとは、T2(象徴界)→T8(想像界)→T5(現実界)と秩序化の方向に進む。

統合を、全体を通してもう一度見てみよう。

5(現)→8(想)→2(象)→4(現)→1(象)→7(想)→5(現)

たしかに現実界であるT5とT4を通ると、統合において進む方向である「秩序化」と「非秩序化」が逆転している。

空間においては、制圧や保持の根源的欲求及び根源的恐怖が働く。そして時間変化により、統合及び退行する。これらは制圧機能もしくは保持機能であるタイプ5、8、2、4、1、7に言えることだが、受容機能の9、3、6は特殊なようだ。
第2章の冒頭で、受容機能は根源的欲求及び恐怖と統合及び退行が絡み合っていると述べたが、まさにこれを説明する時が来たわけだ。
受容機能にとっては界全体の崩壊が根源的恐怖である。これがつまり退行であり、この逆が根源的欲求にあたる統合というわけだ。

受容機能は、T9(現実界)→T3(想像界)→T6(象徴界)→T9(現実界)と統合する。受容機能においては、現実界を経ることで方向が逆転することはないようだ。

もはやここまで注文が増えてくると、やはり複雑な理論は体系化されたとは言え複雑ではないかと言いたくなるだろう。しかし、ここまで説明したことはやはり表面的であるからだ。bioshok氏はエニアグラム理論の全体像についてもまとめていた。これはなかなか神話的ではあるだろうが、非常に興味深い哲学的な説である。以下でエニアグラム理論の全体像を、僕なりに解釈した上で語ってみた。


現実界、想像界、象徴界の3つの界があった。
各界は界全体を受容する欲求、つまり受容機能をもとから持っているようだ。つまり受容機能は母胎だ。現実界の母胎がT9、想像界の母胎がT3、象徴界の母胎がT6というわけだ。

各界にまず空間が出現した。空間という世界の出現により、同時に根源的欲求と根源的恐怖が生じる。つまり制圧機能と保持機能が生まれるわけだ。これらが子にあたる。

空間が出現した直後、時間が出現した。つまり時間変化である統合と退行が生じる。しかし各界の時間は、出現した直後に各界の空間から逃げていくように分離したようだ。

空間(つまり根源的欲求及び恐怖)が出現したことによって現実界の母胎T9から生まれた子(つまり制圧機能と保持機能)はその後すぐに出現した時間(つまり統合及び退行)によって想像界(つまり現実界の統合先)の制圧機能T8と象徴界(つまり現実界の退行先)の保持機能T1となった。これが母胎T9と、そこから派生したT1、T8の「本能」グループである。

同様に、想像界の母胎T3から象徴界制圧機能T2と現実界保持機能T4が派生した。これが「感情」グループである。

さらに同様に、象徴界の母胎T6から現実界制圧機能T5と想像界保持機能T7が派生した。これが「思考」グループである。


5現←6象→7想(思考グループ)

8想←9現→1象(本能グループ)

2象←3想→4現(感情グループ)


各界の母胎(つまり受容機能)T6、T9、T3が、各界の制圧機能と保持機能を受容しようと(つまりもとの界に取り戻そうと)することでエネルギーが生じ、これが時間変化(統合及び退行)を駆動させる。
こうして各界の母胎T6、T9、T3の周りを、各界の制圧機能と保持機能がT5→T8→T2→T4→T1→T7→とまわり続ける(上の図を見ると分かりやすい)。しかしいつまで経っても母胎の横に、同時に同じ界の制圧機能と保持機能が並ぶことはないので、この時間変化は止むことがない。

現状、界と時間と空間が分離してしまっているが、最終的にはこれらをひとつの時空間にまとめ、世界を完成させたい。
そこで、派生した3つの思考、本能、感情グループは、母胎を中心として制圧、受容、保持の横繋がりが既に出来上がっているので、これらの3グループを隣接させて円を作ることにした。すると以下のようになる。

2象制←3想母→4現保・5現制←6象母→7想保・8想制←9現母→1象保・2象制

各グループの母胎を中心に、制圧機能と保持機能が派生され、制圧機能と保持機能はT4・T5、T7・T8、T1・T2と、同じ界同士で隣接している。同空間における制圧機能と保持機能は作用反作用の関係なので、このアーチ構造は崩れることなくうまく保たれるだろう。
こうして時空間および世界はひとつの円によって完成した。これがエニアグラムである。





第5章 未踏のウィングとトライタイプ


エニアグラムは見事に完成したが、従来の理論でいくつか気になるものがある。それが本章のタイトルにある通りウィングとトライタイプである。
ウィングは通常、メインタイプに付随するサブタイプのような扱いであるようだが、今回の理論でいくと円において隣接するタイプである。母胎がメインで子がウィングの場合もあれば、その逆もあり、作用反作用の関係にある制圧機能と保持機能の場合もある。現時点では、ウィングの存在に哲学的理論の裏付けを見い出せていないため、ここで詳しく取り扱うことができない。
また、思考本能感情の各グループから1つずつ取ってくるトライタイプも、やはり存在の裏付けを見い出せないままだ。よって既存のウィングとトライタイプに関しては、本理論においては現段階では無効とする。

しかし確かに、メインタイプのみでは寂しいものではある。そこで僕は本エニア理論に基づく「新トライタイプ」を構想した。

新トライタイプは、現実界想像界象徴界の各界から、最も強い機能をひとつだけピックアップしてそれらを欲求の強い順に並べるというものだ。

つまり現実界のT5、T4、T9から最も強い1タイプ、想像界のT8、T7、T3から最も強い1タイプ、象徴界のT2、T1、T6から最も強い1タイプを選び、これらを強い順に並べれば完成だ。
組み合わせパターンは既存のトライタイプと同じ27通りだが、順列も含めると全部で162通りという前代未聞の数字になる。

強い順に並べることで、どの界が強いのか、そしてどの機能が強いのかが分かる。例えば581であれば、最も強い界は現実界であり、次に想像界、象徴界と続くとわかる。またT5とT8は制圧機能のため、sx優位である、などと考えられる。

新トライタイプの各パターンの説明は今回は省くが、これはいつかやりたいと思っている。そして何より今回のこのエニアグラムの哲学的解釈により、さらなる大きな新たな理論がまた浮上してきたことも面白いことである。




おわりに


僕のブログにおいて、心理機能に関してはこれまでも何回か扱ってきたが、エニアグラムや本能のサブタイプを扱ったのは今回が初めてであった。そもそも僕がエニアグラムに関心を持ったのはわずかここ2、3ヶ月のことである。
僕はやっとエニアグラムを知り、そしてその面白さも知ったばかりであった。しかしそのきっかけもbioshok氏や希望氏の論説を見聞きしたことであり、未だにエニアグラムについては詳しく調べたことはない。よって情報源は彼らのみだと言っても過言ではない。しかしどの道僕は本質が知りたいので、一般的に流布しているエニアグラムに関する情報に触れる前に彼らの論説にありつけたことは幸運だと思っている。そしてもとから関心のあった心理機能と、これらを結びつける構想を閃いた、というのが近々発表予定の「心理機能×エニアグラム×本能のサブタイプ統合理論」である。言うまでもなく、統合理論を読むにあたっては本記事及び本理論は必須となる。近日発表する「改訂版 心理機能の哲学的解釈の全て」と本記事を読み合わせれば、読者の中には僕が統合理論を発表する前に独自で統合理論を思い付いてしまう方もいるかもしれない。結局のところ、bioshok氏やその他類型論及び哲学知識層が提唱した別々の理論をこのように統合していくのは、世の真理はひとつであり、人間が生み出すあらゆる理論や考察、言語などの表面的なものは核心に統合できるという信念に基づいているだろう。それでは、近いうちにまたお会いしよう。
この記事の執筆に際して情報を提供してくれた皆様、議論や考察に付き合ってくれた皆様、そして読者の皆様に感謝する。


[筆者プロフィール]
Ame Rica


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